研究課題/領域番号 |
24520919
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
政岡 伸洋 東北学院大学, 文学部, 教授 (60352085)
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キーワード | 東日本大震災 / 復興政策 / 生活再建 / 民俗行事の復活 / コミュニティの再構築 |
研究概要 |
本年度の軸となる研究としては、前年度に引き続き、①被災地である宮城県本吉郡南三陸町戸倉波伝谷地区における暮らしの再建に向けた動きに注目した聞き書き調査および春祈祷や魔王神社の祭礼といった行事等の参与観察による映像も含めた記録化、②岩手県盛岡市の盛岡八幡宮例大祭については映像記録化を軸に現地調査を行い、資料を収集した。 また、比較のための調査においても、宮城県の文化財行政の対応、東松島市の事例について、連携研究者および研究協力者の協力により本年度の動きについて押さえつつ、沖縄県での資料収集や和歌山県の歴史学者による史料を用いた災害教育の現場にも参加することができた。 これらに対し、本年度はこれまでの成果について、論文や学会発表、また市民活動の場においても中間報告等の機会をできる限り持つように努めた。 ところで、以上の研究活動の中でも本年度の成果で注目されるものとして、①の被災地を対象とした調査では、震災直後に比べ、だいぶ落ち着きを取り戻しつつあるイメージがあり、マスコミ等においても復興に向けて前進しつつあるかのように報道される一方、被災地では「復興はほとんど進んでいない」という話がいたるところで聞かれる現状に対し、新たな知見を得ることができた点である。この一見すると矛盾するかのような状況をいかにとらえるべきかについては、きわめて重要な課題であるといえるが、今日の姿は復興政策下の状況に慣れた結果であって、必ずしも被災者が望む自立した暮らしの再建が進んでいるとは言えず、復興に向けた道のりはこれからで、まだスタートの準備段階であったことは新たな発見であった。この点からすれば、次年度に本格的に始まる高台への集団移転と、それに伴う新たなコミュニティ形成は、今後の暮らしの再建の動きにとって大きな影響を与えるものと言え、引き続き被災地の動向を丹念に押さえていく必要をあらためて感じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、被災地で起こりつつあるさまざまな現象を現地調査にもとづく具体的な資料をもとに検討し、民俗学の立場からいかに理解すべきか考えることを目的としているが、その大きな特徴として、研究実績の概要で述べたような、災害ではなく暮らしの再建というものを軸にみた場合の独自の理解が提示されつつあり、順調に進んでいると判断している。 また、その成果についても、宮城県の被災した民俗文化財調査の成果も含めた政岡伸洋「震災後における民俗の活用と被災地の現在―南三陸町戸倉波伝谷の場合―」(2014)、同「地域の暮らしと復興の課題」(2013)といった執筆業績とともに、同「復興の名の下で何が起こっているのか―宮城県本吉郡南三陸町戸倉波伝谷地区の場合―」(2013)、同「被災地の今をいかに理解すべきか―宮城県本吉郡南三陸町戸倉波伝谷の事例より―」(2013)といった学会発表、そして市民向け講座として同「震災後の民俗行事の意味を考える―南三陸町戸倉波伝谷の事例から―」(2013)をはじめ、同「死をめぐる民俗から見えるもの」(2013)、同「宮城県における盆踊と被災地支援への活用の意義」(2013)、また盛岡八幡宮例大祭の成果についても、同「祭礼の見方・考え方―盛岡八幡宮例大祭の山車行事を中心に―」(2014)において公開できた。 一方、今年度は現地調査のための時間確保が難しい面もあったが、これまでの成果の公開の機会が学会のみならず市民向け講座等で多く持てた点は、当初の計画以上に進展しており、総合的に見ておおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
震災後の復興政策による混乱も、やや落ち着きを見せはじめている被災地の暮らしであるが、高台への集団移転も具体化してくると、新たなコミュニティのあり方をどうするかについての関心が高まりつつあるように感じている。たとえば、震災後2回目の2013年3月の契約講総会は出席者も少なく、その存在意義も疑われるような状況であったが、移転計画が具体化してきた3回目の2014年3月の総会では、役職者の交代も行われたが、すべての世代がかかわることになり、新たなコミュニティをどう作っていくか、激しい議論が展開された。被災地は新たな暮らしの再建に向け、大きな変化の時期を迎えているといえる。その意味で来年度の動きは詳細に押さえていく必要がある。 また、ある程度本研究の独自性が見えてきたこともあり、近いうちに起るとされる南海地震の影響を受ける和歌山県では、地元の研究者を中心とする地域の文化を活用した災害教育関係の活動が盛んであり、これらとの研究交流会等が実施できればと考えている。 この他、神戸市や旧北淡町を中心とした阪神・淡路大震災の被災地、沖縄県の津波石や高知県、新潟県中越地震の被災地等を対象とした比較のための現地見学・調査も実施し、東日本大震災の被災地の独自性の検討も行いたい。 そして、次年度は本研究の最終年度にもあたることから、これまでの成果をまとめ、民俗学の立場からみた東日本大震災の被災地におけるこれまでの動きをいかに理解すべきか検討し、まとめていければと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、公務が重なり、現地調査に行く機会があまり取れず、書籍等の購入により従来の研究成果の再検討が中心となってしまったため、旅費およびそこで得られた資料整理等の人件費が消化できず、次年度繰越金が発生した。 とはいえ、現地調査による資料収集は決して遅れているとは言えないが、次年度は復興政策の終了・高台への集団移転が具体的に動き出すなど、新たなコミュニティ形成・生活の再建の動きが加速化し、大きな変化の時期を迎えることから、これらを活用し、現地調査の旅費およびそこで得られた資料整理の人件費として使用する予定である。
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