研究課題/領域番号 |
24520920
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研究機関 | 茨城キリスト教大学 |
研究代表者 |
志賀 市子 茨城キリスト教大学, 文学部, 教授 (20295629)
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研究分担者 |
黄 蘊 関西学院大学, 付置研究所, 講師 (10387384)
芹澤 知広 奈良大学, 社会学部, 教授 (60299162)
石高 真吾 大阪大学, 学内共同利用施設等, その他 (70511799)
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キーワード | 華人 / 潮州人 / 善堂 / 慈善 / 宗教 / ネットワーク / 東南アジア / 移民社会 |
研究概要 |
(1)国内研究集会。今年度は2回行った。1回目は7月6日に拓殖大学で24年度に行った調査報告と今後の研究計画を各自報告した。2回目は2月15日に奈良大学において、ゲストスピーカーによるタイ華人善堂について講演会を行うとともに、メンバー各自が26年度に予定している華僑華人学会の分科会でのテーマとその概要について発表し、今後の方向性について討論を行なった。 (2)海外調査。8月、東南アジア各地に広がった潮州系華人慈善文化の地域間比較に供する資料の収集を目的として行なった。タイ:志賀、芹澤、石高、黄、玉置はバンコクに合流し共同調査を行なった。①昨年の調査からタイの華人宗教団体には宋大峰系の善堂や明聯以外にもいくつかの系統が存在することが明らかになった。今年度はそのうちタイ全国に支部を持つ保宮亭系の団体(廟)とバンコク市内の仏教社(会)及び徳教会についての調査を行ない、華人宗教結社が持つ機能のバリエーションを把握した。②志賀、玉置は昨年に引き続き華僑崇聖大学において華字紙の閲覧を行なった。③石高は華人慈善団体との比較のため、タイ系寺院における慈善行為とその心性についての調査を行なった。マレーシア:8月15日以降、志賀、黄、玉置はマレーシア・ペナン島のジョージタウンやペナン州近郊の平安新村において潮州系の善社の調査を行なった。ペナンの善社はタイとは異なる独自のネットワークを形成しており、宋大峰祖師の神像や伝説、廟宇のレイアウト、儀礼や活動にも独自性が見られることが明らかとなった。 ベトナム:8月後半芹澤はベトナム南部のチャビン州とホーチミン市の華人宗教施設を調査した。チャビン州では、潮州人の子孫が多く住む村落の関帝廟の盂蘭盆行事に参加し、潮州文化がクメール族やヴェト族の文化の影響を受けて土着化していったことを確認した。香港:志賀は本科研以外の費用で香港の潮州系善堂の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①資料収集と分析:本研究課題は、エスニシティとしての「潮州人」は、移民先の国や地域において、華人の置かれた政治・社会・経済的環境に応じて、また華人社会内部における他のエスニック集団との接触、競合、摩擦などを通して構築されたという前提に立ち、その構築プロセスには潮州善堂文化が少なからぬ作用を果たしたという仮説を提起し、文化人類学と歴史学双方の方法と資料に基づいて検証していくことを目的としている。昨年度までの調査から、「潮州人」の存在形態は、移民先の社会、文化や移民の形態、移民の人口規模、居住形態、華人社会内部のエスニック構成などによって異なることが見えてきた。今年度はタイ、マレーシア、ベトナム、香港、台湾の潮州系華人を対象として、エスニック・カテゴリーやエスニック組織の出現過程、移民先の国や地域社会への同化による慈善文化の変容や新たな文化創出の状況について、現地調査を行い、多くの興味深い資料を収集することができた。また潮州系慈善団体の主要な機能である功徳儀礼サービスに関しても、儀礼の担い手や知識をめぐるトランスナショナルなネットワークを確認できた。今後は収集した資料のさらなる分析・考察を行う。 ②データベース:調査によって得たデータをどのように公開していくのかについて、まだ合意が得られず、具体的な作業段階に入っていない。
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今後の研究の推進方策 |
①海外共同調査:最終年度となる今年度は、8月にメンバー全員が中国広東省東部の潮州地域を訪れ、善堂や仏教社の歴史や現状についての調査を行い、東南アジアの潮州系慈善団体の展開を考える一助としたい。 ②共同調査と並行、または別途、担当地域及び関心に基づき以下の個別調査を行う。芹澤はベトナムにおいて、1960年代、70年代に行われていた遺骨収拾の儀礼の変化について整理をする。またタイの土着信仰と結びついたタイ華人の善堂のように、潮州人の慈善活動がベトナム的なものとどのように結びついているのかについてもさらに調査を進める。玉置、黄は善堂が提供する儀礼サービスの担い手のネットワークに注目し、それぞれ潮州―香港―タイ、シンガポール―マレーシアの関連団体の聞き取り調査を行う。志賀は8月に香港各地で行われる潮州系コミュニティの盂蘭勝会を訪れ、聞き取り調査を行う。石高はタイ社会における慈善の意味と実践について、引き続き資料収集を行う。 研究成果発表:11月の華僑華人学会において分科会を組織し、当該研究課題の成果を発表する。学会誌『華僑華人研究』に研究成果論文を投稿する。これまで調査を行った華人慈善団体のデータを集約する。検索可能なデータベースの構築は時間的に間に合わない可能性もあるが、少なくとも情報を整理したリストを作成し公開できるようにしたい。また来年度の文化人類学会での分科会発表、最終的な成果となる論文集の出版に向けて準備を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
①当初の計画では、研究協力者の玉置が2014年2月にタイにおいて当該年度2回目の調査を行なう予定だったが、本人の都合により実施できなかった。 ②一部はデータ入力のための人件費として予定していた費用であるが、実施できなかった。 ①最終年度においても、すべてのメンバーが海外調査を行なうことができるよう、分担金に加える。 ②アルバイトを増やし、データ入力の作業効率を高める。
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