研究課題/領域番号 |
24530001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (10292814)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 長崎 / 抜荷 / 近松門左衛門 / 町人 / 武士 / 信用 / 比較 / 演劇 |
研究実績の概要 |
今年度、第一に行ったのは、近世日本における海外への窓口である「四つの口」のうち唯一の幕府直轄都市であった、長崎に関する現地調査である。とりわけ長崎歴史文化博物館における抜荷関連史料の収集・調査により、これまで行ってきた公刊史料の分析結果を補完することができ、長崎から上方に跨る抜荷組織や抜荷品の流通のあり方、長崎と江戸の幕府役人の抜荷に対する意識の相違等が、一層具体的に明らかになった。 第二に、これまで主に近松門左衛門の作品分析によって解明してきた、支配体制や海外に対する町人の意識を、同時代及び前後の時代の武士や儒家の意識と比較することを試みた。その結果、特に対外観や抜荷に対する意識については、幕府に仕える役人間でも相違が見られ、例えば徳川吉宗による抜荷政策の転換(寛刑化や内部告発の強化等)の効果や意義に関しては、幕府内でも懐疑的な見方や批判があり、その中には、町人に近い意識を窺わせるものも含まれていることが分かった。しかし、その一方で、享保期(1716~36)以降、町人文化に対する統制が強まるにつれ、元来町人の意識に強く見られた、体制に対する抵抗自体が薄れてゆくことも確かであり、18世紀半ばになると、町人を主たる享受者とする文芸においても、武士の世界やその価値観が肯定的かつ頻繁に描かれるようになることが明らかになった。また、こうした体制への見方の変化に伴い、町人の対外観も変化し、「異人」や「異国」を、自らとは隔絶した珍奇な存在として捉える傾向が強まるといえる。 第三に、前年度に引き続き、16・17世紀のフランス及び古代ギリシアの演劇に関する研究の検討を行ったが、これらとの比較を通じて、近松やその同時代の文芸に頻出する、親子関係、信用、自死、心中等をめぐる問題について考察を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から繰延となっていた、長崎における史料調査を、年度初めに行うことができた上、本年度に行う予定であった、近松と同時代の武士や儒家の対外観の検討や、町人の対外観と国内体制に対する意識との関係の解明は、ほぼ計画通りに進んだ。もっとも、武士や儒家の意識・思想についての検討は、まだ十分ではないと感じているが、特に国内体制の問題に関して、西洋の演劇との比較により、当初予定していた以上に考察が深まった部分もあるため、全体としては、おおむね順調に進展している、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの3年間で、主要な史料の分析はほぼ終えているが、分析結果を総合する過程で、調査・分析を補強すべき点が現れることが予想される。また、近世東アジア史・外交史・経済史等は、特に近年研究の進展が見られる分野であり、最新の研究文献の検討が必要となる可能性が高い。一方で、今年度は研究以外の仕事の増加が予想されるため、研究の効率的遂行が大きな課題となる。したがって、一次史料・二次文献の収集・整理を必要に応じてアルバイトに依頼し、また図書館の相互貸借制度を活用して複写物の取り寄せを行う、といった方策を増やすことにより、作業のさらなる効率化を図る。 研究成果の発信については、まず秋に東京で行われるシンポジウムで、その一部を口頭で報告する。その準備の過程で、法学・歴史学・文学の研究者と意見交換を行い、また報告時に得た意見や批判も参考にしつつ、最終成果を論文にまとめてゆく予定である。
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