本研究は、近代フランスの司法制度の歴史研究を、狭い意味での法制史にとどまることなく、制度を支える担い手たちやその法思想・法文化にも対象を広げることを目的としているが、とくに2014年に開催したリール大学司法史研究センターとの日仏シンポジウム「司法史研究の比較可能性」の成果を引き継ぐかたちで、法社会史的手法の重要性を確認することができ、そのような観点から資料収集をおこなった。とくに日本では入手閲覧が難しい文献をフランス現地で見つけることができた。具体的には、フランス革命期に創設され20世紀なかばまでつづいた治安判事向けに出されたマニュアルないし事典のような書物や19世紀末のカトリック法律家協会による法制史雑誌を収集でき、その分析をおこなってきた。2014年には、法思想史の観点からセルジュ・ドシ教授の講演「モンテスキューの有名な喩え『法律の口としての裁判官』について」の翻訳と解説を発表し、裁判官の役割が機械的なものであるのか否かの問題を時代のコンテクストで解明する必要を強調し、法文化史の観点からはパリ高等師範学校ジャン=ルイ・アルペラン教授を招いたセミナーにおいて、その新作『フランス法文化』を中心に、法学教育なども視野に入れた上で近代法を分析することの重要性を確かめることができた。そして、2015年3月、ナンテールのパリ第10大学での日仏公法学会シンポジウムの法制史のセッションで、朝鮮併合前の大韓帝国の顧問として、短期間ながら重要な役割を果たした梅謙次郎の立法活動や司法制度構想を紹介するなか、当時の近代フランス法思想の影響を報告することができた。
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