研究課題/領域番号 |
24530008
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
岩田 太 上智大学, 法学部, 教授 (60327864)
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研究分担者 |
勝田 卓也 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20298095)
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キーワード | 陪審 / 英米法 / 研究手法 / 情報へのアクセス / 裁判員制度 |
研究概要 |
本研究は,現代において最も活発に機能している合衆国の陪審制度の理念を探るために,陪審の実態などを直接的に研究するのではなく,その研究手法に注目し,そこから焙り出される陪審の理念と法を明らかにしようとするものである.特に,合衆国における陪審研究の特徴となる陪審経験者へのインタビューや陪審評議室への研究者のアクセスなどの研究について,陪審の母国たるイングランド,また,豪州における陪審研究と陪審法制との比較も行い,合衆国の特徴をより鮮明にすることが目標となる. そのため,本研究は,(1)合衆国における陪審の経験的研究に関する網羅的な文献研究,(2)陪審の経験的な研究に対する政治・政策形成的な場面に関する文献研究など,さらに,(3)陪審に関する経験的研究の専門家などへのヒアリングなど,という3つの手法で研究する. これまでの2年間(H24-25年度)においては,上記(1)および(2)にある文献調査を中心におきつつ,さらに陪審研究の専門家との意見交換も合わせて研究を実施してきた.代表者および分担者間で研究方針や進め方について密接に連絡を取りながら,文献研究については岩田が(1)の経験的調査を,勝田が(2)の議会資料,裁判所資料などを分担し行ってきた.当初の計画で想定していたとおり,文献が膨大であったために,初年度はそれらの分析を優先し,海外の専門家との意見交換およびフィールド調査に第2(H25)年度から開始した. 本研究の特徴は,陪審に関する研究手法に注目することによって,そこで暗黙の前提とされている陪審制度の理念,また広く裁判という公的機関における情報へのアクセスと法の規制などに焦点をあてることによって,英米諸国における陪審像の異同を明らかにする ことである.それと共に,日本における将来の裁判員制度の実態調査などへの示唆を行うことを目標とする点が最大の特徴である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで2年間(H24-25年度)においては,下記(1)および(2)にある文献調査が研究計画の中心としつつ,専門家へのインタビューを同時並行し行ってきた.研究代表者・研究分担者で異なった対象・視点から分担することによって,概ね予定通りに行ってきた.これまで行った文献研究の対象は,(1)合衆国を中心とする陪審研究,特に経験的研究に関する網羅的な文献研究,および,(2)陪審についての経験的な研究のあり方が議論された政治・政策形成的な場面に関する文献研究(議会議事録,裁判所資料調査),である.また陪審制度が機能する文脈を十分理解することの重要性が研究過程でより明らかとなってきたために,勝田を中心に刑事司法全体の枠組みについての最新の研究なども吸収するように勉めてきた.昨(H25)年度からは,海外の陪審研究者とのヒアリング調査を開始した.特に下記に記したシンポジウムの参加者である国内外の陪審研究者と本研究テーマについて意見交換を行い,さらに岩田がH25年8月からの在外研究にともない合衆国Wisconsin州に滞在することを利用し,同州の陪審機能等について実地調査を行った. また本研究の成果の一部を2013年9月開催の日米法学会シンポジウム「アメリカ陪審制度の再検討-陪審制度の現状を問う」(代表・丸田隆関西学院大学教授)において代表者の岩田が報告した.そこでは,DNA鑑定技術の発展に伴い近年多数の冤罪が明らかになってきた問題との関連で,合衆国で注目を浴びている目撃証言と陪審の機能を題材に報告した.具体的には,過去3-40年間に集積された目撃証言と陪審をめぐる経験的研究が捜査のあり方,陪審審理のあり方に影響を与えてきた判例などに注目することによって,そこから見える陪審機能や理念を分析した報告を行った.まさに本研究が目指す研究手法に注目することから陪審機能を探るものである.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,過去2年間(H24- H25年度)に行った文献調査および国内外の陪審研究者との意見交換を礎としながら,実際に合衆国において経験的研究を行っている専門家,裁判所関係者(陪審研究の中心拠点であるThe Center for Jury Studies)などへの本格的なヒアリング調査,また合衆国の様々な州での実態調査を通じ,文献調査の整理分析の洗練度を上げることを目標とする.文献研究はほぼ終えているが,疑問点の解消など,必要に応じて補足的な文献研究を継続することとする.また可能な限り豪州など他の英米法諸国との比較を行い,それまでの分析結果についての同じ英米法国での異同を確認したい.合衆国における実地調査だけでも時間的に相当タイトなスケジュールとなるが,その際可能な限り合衆国以外の英米法諸国(豪州,英国)などでのヒアリング調査も実施したいと考えている.難しい場合には,文献的な研究とともに,これまで知己を得ているそれらの諸国の研究者・実務家などとメールその他の方法で代替したいと考えている. 海外実態調査を行う際には,特に【現在までの達成度】に記載したように,代表者の岩田が成果の一部を発表した日米法学会シンポジウム「アメリカ陪審制度の再検討-陪審制度の現状を問う」において知己を得た国内外の陪審研究の専門家(関西学院大・丸田隆教授,Valerie P. Hans教授(コーネル・ロースクール),実務家でもあるMatthew J. Wilson 教授(ワイオミング・ロースクール))などとの連携だけではなく,これまでの研究過程で知己を得た研究者・実務家との連携を最大限効率的に活用したい.岩田はH26年前半まで引き続き合衆国に滞在するため,他州の状況を含めて陪審をめぐる研究手法およびそこから生まれた改革などの状況を含め最新動向を研究する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
計画段階で想定していたとおり,また昨年度の報告書に記載したように,初(H24)年度において文献研究を集中的に行うことを優先したため.当初計画していた予備的なヒアリング調査を行わなかったことから,そのための旅費を第2(H25)年度以降に持ち越すことになった.第2年度においては,2013年9月に行われた陪審関連のシンポジウムを契機に集中的に合衆国における実地調査を岩田を中心に行ってきたが,まだ多少初年度の計画変更によって旅費その他の支出分が残っていたため次年度使用額が生じた. 最終年度は,過去2年間(H24- H25年度)に行った文献調査および国内外の陪審研究者との意見交換を礎としながら,実際に合衆国において経験的研究を行っている専門家,裁判所関係者(陪審研究の中心拠点であるThe Center for Jury Studies)などへの本格的なヒアリング調査,また合衆国の複数の州での実態調査などを行う予定であり,前年度までに持ち越した旅費を含め効率的に研究費を利用する予定である.昨(H25)年度末の段階で,当初計画の第2(H25)年度分については100%支出済みであり,当初計画のH24-25年度分から行っても8割以上が支出済みであり,H26年度末までには十分対応可能であると考えている.
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