本研究は,現代において最も活発に機能している合衆国の陪審制度の理念を探るために,陪審の実態などを直接的に研究するのではなく,その研究手法に注目し,そこから焙り出される陪審の理念と法を明らかにしようとするものである.特に,合衆国における陪審研究の特徴となる陪審経験者へのインタビューや陪審評議室への研究者のアクセスなどの研究について,陪審の母国たるイングランド,また,豪州における陪審研究と陪審法制との比較も行い,合衆国の特徴をより鮮明にすることが目標となる. そのため,本研究は,(1)合衆国における陪審の経験的研究に関する網羅的な文献研究,(2)陪審の経験的な研究に対する政治・政策形成的な場面に関する文献研究など,さらに,(3)陪審に関する経験的研究の専門家などへのヒアリングなど,という3つの手法で研究する. 3年間(H24-26年度)の研究においては,上記(1-3)を合わせて研究を実施してきた.代表者および分担者間で研究方針や進め方について密接に連絡を取りながら分担し行ってきた.当初想定していたとおり,文献が膨大であったために,初年度はそれらの分析を優先し,海外の専門家との意見交換およびフィールド調査に第2(H25)年度から開始した.それらの成果の一部は所属学会(日米法学会)の総会シンポジウムで報告され,会誌(アメリカ法)に掲載された.今後も引き続き成果の公表に向け努力したい. 本研究の特徴は,陪審に関する研究手法に注目することによって,そこで暗黙の前提とされている陪審制度の理念,また広く裁判という公的機関における情報へのアクセスと法の規制などに焦点をあてることによって,英米諸国における陪審像の異同を明らかにすることである.それと共に,日本における将来の裁判員制度の実態調査などへの示唆を行うことを目標とする点が最大の特徴である.
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