研究課題/領域番号 |
24530010
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中網 栄美子 早稲田大学, 法学学術院, 招聘研究員 (10409724)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / 韓国:中国:英国:米国 / 国際法 / 治外法権 / 領事裁判 / 植民地 / 判決原本 / 条約改正 |
研究概要 |
本研究では第一に、欧米諸国が「国際法」の名のもとに如何なる裁判を行ったのか、その法と制度を比較考察するとともに、具体的な事例についても実証研究を行う。第二に、第一の比較考察及び実証研究を手がかりに、明治日本が「野蛮国」から「文明国」に発展する過程で、国際法がどのように昇華され、それが治外法権の形で近隣の東アジア諸国へ波及していったかについて考察する。 本年は第二の点において、既に入手していた「民事判決原本」中、日本領事裁判の記録を中心に調査分析を進めた。現在、韓国・大法院記録保存所に所蔵されている資料について、京城(現ソウル)と仁川で行われた日本領事裁判の記録(部分)を確認しているが、他地域についても追跡調査を進めた。特に在留邦人の多かった釜山の記録につき、領事裁判記録については確認できなかったものの、釜山理事庁による裁判記録については約30数冊の簿冊が大法院記録保存所に現存することが判明した。明治38(1905)年の第二次日韓協約により、韓国は外交権を失い、事実上日本の保護国となる。その後、韓国の各開港場等に理事庁が開かれ、理事官が置かれた。理事官は従来韓国日本領事に続したる一切の職権を執行する者であるため、従来の領事裁判も理事官裁判として継続することになる。しかし、理事庁は明治43(1910)年の韓国併合までわずか数年の組織であり、そこで如何なる裁判が行われたのか不明な点が多い。 「職員録」を確認する限り、従来領事であった者がその後理事官になる場合が多く、人的側面では理事官裁判は領事裁判の延長といえる。他方で、従来の領事館が理事庁に改編された直後から訴訟数が飛躍的に増加しており、日韓交渉事件も増えている。日本語・韓国語(ハングル)両併記の記録も多く、韓国併合に至る数年間に裁判制度の大きな変革があったことが伺える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
明治期の「民事判決原本」中、「領事裁判記録」につき継続調査を行っている。 特に韓国大法院記録保存所が保管する領事裁判記録につき、当初計画より時間がかかることが判明した。 第一の問題は、同所が目録を公開していないため、①どの領事館の、②どの年代の記録が、③何簿冊・何件位残っているかという全体の概要が掴みにくい。同所が内部職員用に作成している電子目録は簡易なものであるらしく、「民事判決原本」を地域と年代で区分しているものの、それが韓国裁判所による記録なのか、日本領事裁判所による記録なのかの類別がなく、また簿冊の表紙と内容が異なる場合もある。 第二の問題は、同保存所の利用規則が改められ、利用時間の上限が設けられたことである。昨年度までの訪問において制限が設けられることはなかったが、今後は1人1日2時間という制限が課された。資料保存という観点から、利用者が記録閲覧中は必ず職員が側に付いていなければならず、マン・パワーの制約からこのような規則ができたとのことである。閲覧時間の延長につき別途、特別申請をすることを考えている。 第三の問題は、韓国語で書かれた判決文の難読である。当時、日本の判決文が漢字と片仮名で記録されていたのと同様、韓国の判決文は漢字とハングルで記録されている。使用されている漢字については日本と同様及び類似のものが多く、この点で判決文の大意を掴むことは可能である。また、理事庁記録には日韓併記のものも多く、判決文を理解する上の参考として役立つ。但し、日本では用いられない漢字語や現代では用いられないハングルの修辞もあり、現代韓国語の知識だけでは判読に不十分である。そのため、今後、更に韓国側の近代歴史研究者や文学研究者に助言を求める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は、平成24年度中に実現できなかった計画と、平成25年度に当初より予定していた計画を併せ、より効率の良い形で実施する。 国内における研究調査は、横浜開港資料館における明治期新聞(欧文・和文とも)と外務省外交資料館における帝国領事資料の追跡調査に加え、①国立公文書館と②神戸市中央図書館における資料調査を加える。①については、平成21(2009)年に内閣総理大臣と最高裁判所長官との間で「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」の申合せが締結され、以降、裁判文書については、大審院時代から昭和30年完結分までの民事判決原本等が順次、裁判所から国立公文書館へと移管されている。この内、平成24(2012)公開分に福岡高等裁判所から移管された領事訴訟記録(民事)が含まれていることが新たに分かった。②については、神戸市中央図書館に所蔵されている「神戸開港(居留地)関係資料」及び「兵庫県裁判所文書」(英国領事関係を多数含む)の原本を確認する。横浜における同様の資料を確認できないため、神戸の資料を先に用い、英国での資料調査の基礎とする。 海外における調査は、平成24年度未実施の英国調査を予定する。調査は英国公文書館(The National Archives)を中心に行い、この他、オックスフォード大学の植民地法制研究者との意見交換を予定する。また、平成25年度に予定していた米国における資料調査を実施する。主として東海岸における国立公文書館(The U.S. National Archives and Records Administration)での調査を中心とするが、特にアメリカ領事裁判所の上訴審であるところのカリフォルニア連邦巡回裁判所の記録について所在調査を行う。韓国・大法院記録保存所に所蔵されている「民事判決原本」についても継続調査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
【消耗品費】小型シュレッダー・2万 プリンタ用トナー・4万 プリンタ用紙・2万 図書資料・20万 文具・2万 記憶媒体(DVD-RW・USBなど)・2万 【国内旅費】6・7月…神戸市立中央図書館所蔵における資料調査(各3日間・各8万) 【外国旅費】5月…韓国・大法院記録保存所における資料調査及びソウル国立大学校・延世大学校における意見交換(1週間・15万円) 8月…韓国・大法院記録保存所における資料調査及び小研究会(2週間・40万円) 9月…英国・国立公文書館における資料調査及びオックスフォード大学における意見交換(10日間・50万円)12月…米国・国立公文書館における資料調査(10日間・50万円) 翌2月又は3月…韓国・大法院記録保存所における資料調査及び小研究会(1週間・15万円) 【人件費・謝金】外国語文献(中国語・韓国語など)翻訳補助・10万 【その他】資料複写費・20万 通信費・2万
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