研究課題/領域番号 |
24530010
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中網 栄美子 早稲田大学, 法学学術院, 招聘研究員 (10409724)
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キーワード | 国際情報交換 / 韓国:中国:英国:米国 / 国際法 / 治外法権 / 領事裁判 / 植民地 / 判決原本 / 条約改正 |
研究概要 |
〔研究目的〕本研究は日本が幕末・明治維新以降、欧米諸国による近代「国際法」の法理を受容する過程で、「治外法権」が日本を含む東アジア諸国にもたらした波及効果を領事裁判と植民地裁判を中心に比較考察することにある。本研究では第一に、欧米諸国が文明水準の違いに応じて如何なる裁判を行ったのか比較考察するとともに、第二に、明治日本が「野蛮国」から「文明国」へ発展する過程で近代国際法がどのように昇華され、近隣の東アジア諸国へ波及していったのかについて考察する。 〔研究方法〕 第一の目的のために、当時最も影響力を持った英国領事裁判について、現存する領事裁判記録を中心に調査を進めた。同記録は、先行研究により、国内では神戸市立中央図書館及び神戸市博物館に原資料の一部が所蔵されていること、海外では英国公文書館に関連資料があることが確認されている。日英に分かれて存在する原資料につき、両者の関連づけを行いながら内容分析を試みた。第二の目的のために、前年度に引き続き、福岡高等裁判所から国立公文書館へ移管された領事訴訟記録(民事判決原本)の調査・分析を行った。併せて、「野蛮国」から「文明国」への過渡期に起きた明治24年の大津事件について最高裁判所及び滋賀県県政史料室、滋賀県警が所蔵する事件記録の調査を行った。 〔研究成果〕 第一に、神戸に残された英国領事裁判記録の欠損を埋める史料を英国公文書館で発見することはできなかった。しかし、同種の裁判記録として長崎に関連するものを数点発見することができた。第二に、日本領事裁判につき、国立公文書館所蔵資料から、在北京・南京・天津日本帝国領事による具体的裁判事例を確認することができた。大津事件の記録からは事件の「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」としての側面や被告人に対する過酷なまでの取り調べ状況、さらには事件をめぐる全国弁護士会の動きなど、新たな着眼点を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は欧米諸国が各々の本国外で行った裁判について調査するため、最初に制度の概要について前年度までに収集した資料を中心にまとめ、具体的事例について調査した後、英国公文書館及び米国公文書館を中心に調査を行う予定であった。 国内では、横浜開港資料館所蔵の明治期新聞や外務省外交史料館所蔵の領事裁判史料の継続調査を行い、次いで在神戸英国領事裁判記録につき、神戸市立中央図書館と神戸市博物館所蔵の原資料確認を行った。また、国立公文書館所蔵の領事館訴訟記録(民事)につき、提供された複写物(電子データ)から内容分析を進めていたが、資料の保存状態等の理由から一部原本でしか確認できないものがあり、継続調査の必要がある。 海外では、英国公文書館における調査から、在長崎英国領事裁判記録の一部を確認することができた。同館では目録が電子化され、所蔵資料の一部もインターネット上から閲覧可能となっているが、本研究関連資料については詳細な目録はなく(資料の特定が困難)、デジタル資料もない(アクセス上の困難)状態のため、未確認資料を次年度継続して調査する必要がある。米国領事裁判記録、特に米領事裁判の上訴先であるカリフォルニア巡回裁判所の記録を調査予定であったが、上記英国調査及び資料分析に予想以上の時間がかかったため、本国調査は実施しなかった。代わりに、データベース上で公開されている資料と判例の調査を行った。この調査により、日本から米国本国まで行って争われた領事裁判事例があることが確認された。 韓国大法院記録保存所所蔵の民事判決原本については平成24年度に引き続き継続調査を行った。新たな資料を発見することはなかったが、既収集資料の不明な点(複写物で確認できない箇所や複数資料間の関係など)を確認することができたほか、延世大学図書館などを利用し、最近出版された図書等の資料調査を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は、研究の最終年度であることから、年度前半に前年度積み残し課題の集中整理(4~7月)と、継続調資料調査(8・9月)を行い、年度後半には研究成果のまとめに向けて包括的な研究を行う。 国内における調査は、外務省外交史料館所蔵・帝国領事裁判関係史料の確認と国立公文書館所蔵・領事館訴訟記録(民事)を中心に行う。後者については司法府から移管された裁判文書が国立公文書館つくば分館に保管されているため、閲覧審査や本館(東京)への移送時間を考慮し、8月ないし9月に分館での集中調査を計画する。前年度調査を行った神戸市立中央図書館と神戸市博物館所蔵の在神戸英国領事裁判記録と滋賀県県政史料館所蔵の大津事件記録について必要に応じて国内出張調査を行う。 海外における調査は、韓国大法院記録保存所・民事判決原本、英国公文書館・外交文書及び米国公文書館所蔵資料を中心に行う。韓国調査は既に入手している判決原本複写物の原本確認と韓国研究者との意見交換を年2回(8月・翌2月)いずれも短期で実施する。英国公文書館・外交文書は既にデジタル撮影を終えている在神戸英国領事館記録の確認と関連資料の追跡調査を中心に行う。同調査に併せてオックスフォード大学においてボードリアン図書館所蔵資料の追跡調査と英国研究者(植民地・外交史研究者)との意見交換を8月ないし9月に計画する。米国領事裁判については先行研究により判例集未登載の上訴事例があることが判明しているため、米国公文書館等において関連する外交文書を中心に調査するほか、米国研究者との意見交換を行う予定である(12月又は2月)。 上記調査の中間研究報告を法制史学会・東京部会などの場を利用して行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
〔外国旅費〕として、韓国(1週間@15万円×2回+2週間@40万円×1回=計70万円)、英国(10日間@50万×1回)、米国(10日間@50万円×1回)の各調査計170万円を計上していたところ、韓国調査は5月(8日間×1回)と8月(11日間×1回)の2回に留めたため、約20万円の未使用額が生じ、米国調査については英国調査に時間がかかった結果、実施しなかったため50万円の未使用額が生じた。この他、〔その他〕費用に計上した資料複写費の一部について、自分でデジタル・カメラ撮影をするなどして当初予定よりも支出が抑えられた結果、当該金額の次年度使用額が生じた。 平成26年度請求額に平成25年度未使額を加え、下記の通り使用することを計画する。 【消耗品費等】図書資料・25万円 プリンタ用トナー・4万円 プリンタ用紙・3万円 文具・2万円 記憶媒体(DVD-RW、USBなど)・2万円 計36万円/【国内旅費】神戸(神戸市立中央図書館)又は大津(滋賀県県政史料室)における資料調査(3日間@6万円×2回) 計12万円/【外国旅費】韓国(大法院記録保存所ほか)における資料調査(1週間@15万円×2回)英国(公文書館ほか)における資料調査(10日間@50万円×1回)米国(公文書館ほか)における資料調査(10日間@50万円×1回)計130万円/【人件費・謝金】外国語文献(中国語・韓国語ほか)翻訳補助10万円 計10万円/【その他】資料複写費12万円 通信費6万円 計18万円
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