〔研究目的〕本研究の目的は日本が開国以降、欧米諸国による近代「国際法」の法理を受容する過程で、「治外法権」が日本を含む東アジアにもたらした波及効果を考察することにある。欧米諸国が日本を「野蛮国」「半文明国」とみなし完全主権を認めずに不平等条約をしいたこと、他方で「近代」国家の途上にあった日本が中国や朝鮮に対しては不平等条約をしいて領事裁判や植民地裁判を行ったことの意味を問うとともに、両者の「裁判」が民事における紛争解決や刑事における犯罪者処罰に果たした役割をも問うていくものである。 〔研究実施計画〕上記目的を達成するため、平成24年度には韓国・大法院記録保存所に在る日本領事裁判の民事判決原本と韓国・国家記録院に在る日本領事裁判の刑事判決原本の調査を中心に研究を進めた。とくに、領事裁判から植民地裁判への過渡期ともいえる理事庁における裁判については司法統計、任命された理事官、具体的な事件について分析した。 平成25年度には日本で行われた欧米諸国による領事裁判について、先行研究をふまえ追跡調査を行い、とくに神戸市立中央図書館や神戸市博物館に在る英国領事裁判記録について調査を行った。併せて、領事裁判と比較する意味で、日本人の外国人に対する犯罪事件のうち、特に大津事件について、最高裁判所、滋賀県県政史料室、滋賀県警に在る関係記録を調査し、比較考察及び先行研究に対する再考を行った。 平成27年度(最終年度)は先の2年間の調査をふまえ、国内においては国立公文書館にある長崎控訴院民事判決のうち、領事裁判に関する記録を調査した。海外においては、英国公文書館と米国公文書館において、領事裁判・植民地裁判記録の追跡調査を行った。さらに、今後の研究を展開する意味で、「治外法権」の近・現代版ともいえる占領期の沖縄における裁判につき、沖縄県公文書館と米国公文書館の裁判記録を中心に調査を行った。
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