研究課題/領域番号 |
24530012
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
谷口 昭 名城大学, 法学部, 教授 (20025159)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 台湾総督府公文類纂 / 臨時台湾土地調査局 / 総督旧蹟文書 / 台湾の近代化と旧慣 / 明治官僚制 |
研究実績の概要 |
台湾総督府の関係文書からは、統治業務に従事した官員たちの実像が浮かび上がってくる。本研究は50年に及んだ台湾統治の功罪を摘出し、一概に「帝国主義下の植民地政府」とはいえない施政の実態について再評価を行うものである。官員たちが業務に臨んだ姿勢に視点を据えることによって、外地を媒介とした日本の近代法の展開と、明治期官僚制の特質が浮き彫りになるからである。一足先に近代化を経験した日本人による台湾近代化の過程を追体験することで、明治日本と台湾という歴史空間を再現し、多様な観点から再評価することが可能となろう。 総督府官員データについては、明治・大正期の整理と分析作業が終了した。27年度は新たに台湾における慣習調査に着目し、慣習立法への道筋を辿った。臨時台湾旧慣調査会は、土地調査局の活動が終わる1904年以後も原住民社会を含む広範な慣習=旧慣の調査を続けた。台湾統治に内地法の延長が主張された反面、台湾総督に委任立法権を認めた特別統治方式を採用した結果、台湾の立法に旧慣を取り入れて現状に適合させる必要があったためである。内地法化に転じた1921年以降は慣習立法の必要性が希薄となったが、逆に現代台湾では、裁判事例を通じて慣習が姿を見せることがある。2003年の鄒族頭目の蜂蜜強奪事件を契機として原住民の慣習調査が始まったが、日本統治期以後の空白期を挟んでのことである。原住民社会が保持した慣習への関心と対応の必要性の高まりを示している。 上記事件の舞台となった鄒族の生活空間を窺い、旧慣を保持する伝統社会を体感するため阿里山探訪を試みた。今もそこで生活を営む人々の二三世代前の先人たちは、森林資源を求める総督府の要請に応じて阿里の深山に分け入り、紅檜の巨木を伐採したのであろう。搬出のためには急峻な斜面を縫って数多のトンネルを掘り、木材の集積地嘉義まで山岳鉄路を敷設した労苦を想起した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究基盤として依拠する文献・文書資料のうち、「臨時台湾土地調査局公文類纂」(国史館台湾文献館所蔵)については、292巻の全冊子について画像データを取得し、必要な文書について新たにほぼ10万字の文字データを蓄積した。同時に「台湾総督府公文類纂」本体の関連調査をほぼ終了させた。 また、「総督府職員録」については、明治・大正期の全職員(約3000名×25年分)の記録を蓄積し、データベース化を終えた。年度ごとの推移および類型化の作業も必要な部分については終了することができた。従って、現地に直結する資料調査はおおむね順調に推移しているといえる。しかし、彼らの出自や職務・職種に加えて現地生活の態様と、内地化が進んだ昭和前半期にいたる経年変化の概観を得たものの、明治官僚制の帰結として稼働した総督府官員制の構造原理は、未だ模索の段階を脱したとはいえない。外地資料の処理に重点を置くあまり、国内資料の踏査が遅れたからである。より精細で多角的な分析は27年度も継続中で、そのため研究期間の延長を申請し、受理されたことに多大の謝意を表する次第である。 これまで主たる史料を国立中央図書館台湾分館所蔵の「総督府旧蹟文書」に求めていたが、27年度に駆使し始めた国立中央研究院構築の「職員録データベース」により、この部分の補足的な調査・分析は最終段階まで到達した。 全体としては、史料整備がほぼ完了もしくは完了直前の状態に到達し、研究期間の延長が許可された結果、研究成果の公表に向けた準備が達成されたといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
収集整理した各種データを総合し、研究の目的に沿った分析を完成させて成果の公表に向けた推進策を採る。その内容は次の四点である。 その一は、各種「公文類纂」の取得データおよび翻刻文字データを精査し、立論の基盤を構成する。選抜した文字データは膨大すぎて紙媒体による出版は困難なので、主宰するホームページ上で公にする。その二は、「総督府職員録」について、内地版「明治・大正・昭和 官員録・職員録」(国立公文書館所蔵、マイクロフィルム版)との比較照合を完了させ、国立中央研究院の提供するデータベースを駆使して、効率的で豊かな官員像を提示する基盤を構成する。その三は、台湾大学法律学院王泰升氏が構築・公開した「法院文書」を有効利用し、地方法院に残された判決録から本研究に資する史料を補強する。その四は、これまで手が回らなかった国内の史資料に接近し、明治官僚制に関する基本的な理解に遺漏なきを期する。もって台湾総督府50年の再評価に資する論文等の執筆に着手する。 以上の推進方策の合間に、余裕があれば残された歴史空間を追体験したい。これは、後に計画している翻刻史料集公刊に向けた、最終に近い原本校訂を兼ねさせる意図を含んでいる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度最終段階において研究期間延長の可能性があることを知り、より高度な成果を達成するため延長を申請し、次年度延長が受理されたので、年度末に合理的でない会計処理を避けたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
国内資料調査のため旅費に充当させる。具体的には東京(早稲田大学・国立史料館・国会図書館等)方面への出張経費としたい。
|