研究課題/領域番号 |
24530013
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
戒能 通弘 同志社大学, 法学部, 准教授 (40388038)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ベンサム / 功利主義 / コモン・ロー / 法思想史 |
研究概要 |
平成24年度においては、単著1冊、論文3本を公刊するとともに、国際学会と国内の学会で1回づつ報告した。 単著『近代英米法思想の展開』(ミネルヴァ書房)では、進展が顕著である近年の英米の研究を参考に、17世紀のイギリスから20世紀前半のアメリカの法思想を包括的に検討するとともに、現代英米の法理論をコモン・ローのコンテクストにおいて捉え、「判例法」、あるいは「法」についての英米の考え方の違いを明らかにした。 論文①「イングランドにおける法の支配に関する『法思想史的』考察」(イギリス哲学研究35号)では、わが国でも議論が盛んな「法の支配」に関して、イギリスの法思想の変遷を考察し、その法実証主義的な「法の支配」概念の特徴を明らかにした。平成23年に開催された国際功利主義学会でのペーパーを基にした、イタリアパレルモ大学の紀要に掲載された論文②‘Bentham's Legal Theory and the Common Law Tradition' (Storia e Poltica, Vol.4-2)では、ベンサムとコモン・ロー伝統の連続性とともに、その間の違いについても検討した。論文③「コモン・ローのコンテクストとハート、ドゥオーキン」(同志社法学64巻3号)では、英米の判例法実務の違いも、現代英米法理論の性格の違いの背景の一つであることを論じている。 学会報告に関しては、平成23年度に引き続き、国際功利主義学会(ニューヨーク大学)に参加し、ベンサムの法典化論についての報告をした。また、比較法学会(京都大学)においては、上記の単著のエッセンスを報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、より積極的な法創造の役割が裁判所に期待されているわが国の現状に即して、英米の判例による法創造がどのようにして行われ、正当化されてきたのかを明らかにすることにある。 2013年2月に刊行された単著『近代英米法思想の展開』(ミネルヴァ書房)では、近代以降の英米の法律家、計15名ほどを取り上げ、「法」や「判例法」に関する法思想の展開を跡付けることで、わが国の判例法学への示唆を探る上での「材料」を揃えることができたと思う。 また、判例法の理論のより精確な評価のためには、それに批判的な法思想の検討も肝要である故、本研究では、ベンサムの判例法批判を包括的に研究することも試みているが、2012年8月の国際功利主義学会で、ベンサムの法典化論について報告し、その際の質疑や、海外のベンサム研究者たちとの議論を通じて、様々の有益な助言を受けることができた。なお、2013年の3月には、渡英し、ロンドン大学のScience Libraryに保管されているベンサムの草稿を閲覧した。ベンサムのコモン・ロー批判、判例法批判を十全に理解するためには、『証拠法の原理』などを検討する必要があるが、Science Libraryでベンサムの草稿を閲覧した際には、『証拠法の原理』と関連する未公表の論考を中心に閲覧するとともに、デジタルカメラでいくつかを記録に残している。 本研究の最終年度の平成26年に、横浜国立大学で開催される国際功利主義学会で、セッションを企画しているが、渡英時には、何人かの研究者とその打ち合わせもしている。
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今後の研究の推進方策 |
英米の法思想史、判例法をめぐる思想史の研究については、単著に仕上げることで、一応の区切りはついたと考えている。今後は、国内の学会誌や海外のロー・ジャーナルなどにそのエッセンスを投稿することで、より広い範囲で様々な研究者からの助言をいただけるようにしたい。平成24年度には、イタリアの大学の紀要で、ベンサムとコモン・ローの関係についての英語の論文を公表したが、ベンサム研究者も含め、何人かの海外の研究者から興味深いコメントをもらうことができた。海外のジャーナルへの投稿には、特に力を入れるつもりである。 本年度からは、ベンサムのコモン・ロー批判について、より時間を割いて研究したい。全5巻と大部のものではあるが、ベンサムの『証拠法の原理』などを検討することで、これまであまり明白には指摘されてこなかったような、判例法という法実践や判例法理論の負の側面を検証し、よりバランスの取れた研究にしていきたい。 平成26年度の国際功利主義学会のセッションについても準備を本格化していきたい。すでに、何人かの海外の研究者からは、参加の承諾を得ているが、国内の研究者も含めて声をかけていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、物品費として、まず、ベンサムの『証拠法の原理』や、ベンサムの周辺の著作、コモン・ロー関係の一次、二次文献を購入したい。また、特にベンサムに関しては、オンラインの文献も充実しているため、ipadの購入も考えている。 旅費の使用も予定しているが、2014年の3月に渡英し、ロンドン大学の教授らと、国際功利主義学会のセッションについての打ち合わせを行いたい。また、ロンドン大学のScience Libraryも訪れ、より焦点を絞ってベンサムの草稿を閲覧したい。なお、ロンドン大学のベンサム・プロジェクトが主催しているBentham Seminarで報告することが決まっており、ベンサムのコモン・ロー批判、判例法批判について報告するとともに、ベンサム研究者たちから、様々なアドバイスを受ける予定である。
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