研究課題/領域番号 |
24530021
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
石崎 誠也 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (20159718)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 抗告訴訟 / 取消訴訟 / 義務付け訴訟 / 差止め訴訟 / 訴訟物 / 既判力 / 行政処分 |
研究実績の概要 |
① 2014年度は差止訴訟の性質及び既判力に関する研究を進めた。我が国における2004年行政事件訴訟法改正後の判例の分析を通じて、裁判所の審査の特色を検討した。その結果、差止訴訟の訴訟物及び差止請求棄却判決の既判力について、従前の学説と異なる独自の結論を得ることができた。 ② 差止訴訟の上記研究の成果を踏まえて,取消訴訟及び義務付け訴訟の性質及び訴訟物について法曹関係者の聞取調査を含む総括的研究を行った。 ③ 同時にドイツ行政法学における抗告訴訟の訴訟物につき、ドイツの複数大学を訪問し、取消訴訟と差止め訴訟の訴訟物に関する彼我の共通点と相違点につきを情報の入手と意見交換をした。2014年は、ドイツ・バイロイト大学で、同大学の公法系教授及びバイロイト行政裁判所所長が参加する日独行政訴訟制度に関する研究会を開催することができた。その場では、ドイツにおいては権利侵害性が行政訴訟の本案要件として本質的な意味を持つが、同国の行政訴訟制度をモデルとしたにもかかわらず、我が国の現行行政訴訟が権利侵害性を抗告訴訟の本案要件としては明示しなかったことの立法史研究の重要性が示唆された。他方で、EU訴訟制度では権利侵害が本案要件ではないことも指摘され、行政訴訟制度の世界的動向を踏まえた上での研究の重要性も示された。 ④ これらの研究を踏まえて、差止訴訟の訴訟物につき、研究論文を公表することとし(新潟大学法学会『法政理論』47巻3・4号、2015年5月公刊予定)、さらに研究補助事業期間の延長が認められたため、同延長期間中に取消訴訟・義務付け訴訟を含む抗告訴訟全体に関する研究報告書を作成する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に取り組む前に、義務付け訴訟の性質及びその訴訟物に関する研究を始めており、さらに本研究補助期間中に、ドイツ公法研究者との意見交換を踏まえて、我が国の行政訴訟の特質を把握することができた。 我が国では、取消訴訟の訴訟物につき、従前より、それを取消請求権の存否ではなく係争処分の違法性というように、それを客観的に捉えることが判例学説の基本的な考え方であった。その考えは義務付け訴訟及び差止め訴訟にも適用することができ、行政処分その他の公権力に対する訴訟である抗告訴訟の基本的な性質であると理解することが可能である。その場合、行政処分が法律の根拠に基づいて行われるものであり、法律が処分要件を定めるものであるので、処分の違法性(不作為の違法も含む)は処分要件規定の解釈と係争処分にかかる事実関係によって客観的に決まり、裁判所の審査は違法性の客観的審査と捉えるべきことになる。これによって、実務法曹から出されている見解、すなわち請求権が肝炎できないから形成訴訟と捉えるべきだという見解も批判することができる。 抗告訴訟の訴訟物につき請求権的構成にこだわらないことによって、抗告訴訟の持つ客観的違法性審査機能を理論的に基礎づけることも可能になる。また、このような議論は訴えの利益論についても新たな視点をそれを分析する理論的視座を与えるものであることがあきらかとなった。 しかし、本研究について総括的な研究報告書を予定の期限までに作成をすることができなかったので、これに直ちに取り組む必要がある。 これらの点を踏まえて、本研究は概ね順調に進んでいると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
① 本研究の成果を踏まえて、抗告訴訟の性質論・機能論に関する研究を発展させることが課題である。その際、比較の対象をドイツ行政法からフランス行政訴訟及びEU行政法に拡げることが必要である。これはドイツ研究者との意見交換でも指摘されたことであるが、行政訴訟ないし抗告訴訟の本案要件の本質的要素として「権利侵害」性を求めるのはドイツ法の特徴であり、例えばフランス行政訴訟制度はその客観的違法審査機能を重視しているし、EU行政法もそのスタンスである。研究代表者はこれまでドイツ行政法理論及びドイツ行政訴訟制度を比較研究の対象にしていたが、その比較対象を拡げる必要がある。 ② 本研究成果をもとに、我が国の行政事件訴訟法の解釈理論をさらに深化させる必要があるる。例えば、取消訴訟原告適格論についても、請求権的(権利論的)構成を完全に克服できていないと見受けられるところがあるが、請求権的構成をとらない立場からは、原告適格論についても客観訴訟的視点から再検討していくことが可能となる。これらから行訴法9条1項の新たな解釈の可能性も生じる。 ③ これらを踏まえて、抗告訴訟の訴訟要件及び審理対象の再検討を行い、国民に利用しやすい抗告訴訟制度とするための解釈論を深化させることが今後の課題である。 ④ 本研究は、研究代表者の単独研究で進めてきたものであり、今後もそれを基本とするが、上記のように、EU行政法及びフランス行政法の比較研究については、これらの領域の公法研究者との共同研究を行うものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題に関する研究は、差止訴訟の性質及び訴訟物に関する研究に重点をおきつつ、従前より一定の研究をしていた取消訴訟及び義務付け訴訟の性質及び訴訟物に関する研究成果と照らし合わせることによって、抗告訴訟の性質及び訴訟物に関する統一的把握が可能となった。 差止め訴訟に関しては、研究代表者が所属する新潟大学法学会紀要で発表する予定であるが(2015年5月)、他の抗告訴訴訟も含めた研究を総括した報告書の作成が本来の研究期間の2015年3月までに終了しなかった。 そのため報告書の作成費用について、使用残が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
補助事業延長期間中に報告書を作成することとする。 またそのために必要な調査が生じたときは、調査のための費用として使用する。
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