最終年度である今年度においては、ネットワークの規範が制度に具体化する局面を研究対象とした。この研究を行うにあたって選んだ素材は、困窮状態にある者の支援制度である。 今年度における研究によって得られた研究代表者の理解によれば、階層制とネットワークとの違いは、国民の権利義務に影響を及ぼす行政の主体と活動とを法制度によっていわば一点に集約して規定しようとするのか否かの違いである。国や自治体に設置された行政機関に処分権限を授権すると同時にこれだけに限界づけようとする行政法制の内容、すなわち行政庁による行政行為という理念的な観念は、階層制の典型であるといえる。これに対して、ネットワークにおいては、行政の主体が行政機関に限定されないし、行政活動も行政行為に限定されない。互報を行動原理とする社会における利他的な諸活動を国家が促進するという「支援」は、ネットワークにおける国家行政の一現象形態であるといえる。 もちろんメタガバナンスなどといわれるネットワークにおける国家の機能は縮小どころか拡大している。だとすれば、「支援」する国家行政を統制する行政法を考察しようとする場合には、従来の行政法とは異質の発想が必要になると着想されることとなる。たとえば、自律を破壊しないメタガバナンスの要請である。このような行政法の課題がありうるとすれば、このような課題を解消する試みが、この時代の行政法制度においてどの程度存在するのかが分析されてもよい。研究業績欄に記載したものは、最近の行政法制度である行政不服審査制度に即して、このような課題意識に基づいた分析作業の結果を発表したものである。
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