一昨年度および昨年度に引き続いて、本年度も、行政争訟制度が有する行政統制機能に関する実証的研究についての諸外国の文献を収集し、その研究方法および研究結果を分析した。特に実証的研究が進展している諸外国においても、現段階では仮説が提示されているに過ぎないこと、なおかつ、その仮説の内容も、行政統制機能の有無という「絶対的」なものではなく、行政統制機能に影響を及ぼす諸要素を抽出する「相対的」なもの(例えば「公的意思決定者が行政法に関してよく知っているほど、行政法のインパクトは大きくなる」、「インパクトの主体が『権威的』であるほど、そのインパクトの可能性は大きくなる」等)に留まっていることが明らかになった。これらの諸要素は、今後、わが国において行政争訟制度が有する行政統制機能に関する実証的研究を遂行する際に、有力な着眼点となりうるものである。 なお、本年度が本研究の最終年度であり、本研究の取りまとめとして、イギリスないしオーストラリアに渡航して聞き取り調査を実施する予定であったが、残念ながら聞き取り調査を実施するだけの時間を確保することができなかった。ただし、これまで本研究を実施してきた過程で生じた疑問(例えば「事例研究を実施するときに、どのようにして研究対象となる事件を取捨選択するのか」等)については、平成27年3月に来日した連合王国エセックス大学のMaurice Sunkin教授等から回答を得ることができ、イギリスないしオーストラリアで聞き取り調査を実施できなかった点をある程度は埋め合わせることができた。
|