研究課題/領域番号 |
24530025
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 秀美 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (50247475)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 通信放送法制 / 放送概念 / 表現の自由 |
研究概要 |
2010(平成22)年、日本の通信放送法制は、通信・放送分野におけるデジタル化の進展に対応した制度の整備・合理化を図るための大きな改正が行われた。この改正後の放送法では、「放送」の定義が「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう」から「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう」と改められたほか、「放送」は、地上波放送と衛星放送など無線による「基幹放送」と有線による「一般放送」に区別されることになった。 通信技術の発達により通信と放送の融合が進み、これまで法的規制が課されていなかった通信による表現行為についても内容規制の必要性が指摘されるようになっている。とはいえ、放送規制をインターネットによる動画配信にそのまま拡大することは表現の自由の観点からみて問題がある。そこで2012年度は、新放送法が採用した「一般放送」という概念(法律レベルでは「基幹放送以外の放送」としか定められていない)と非放送の区別について検討し、論文を公表した。また、ドイツでの調査を通じて、ドイツやEUが放送と非放送のくべをどのように行っているか調査した。さらに、新しい放送類似サービスの動向を知るために、放送事業者・インターネット事業者による動画配信の現状、スマートテレビの普及状況などについて関係者からのヒアリングを行った。 なお、日本の放送法制については、「政治的公平」や「事実をまげない」という番組に対する内容規制との関係で、それを監督する監督主体のあり方を検討する必要がある。放送法は、総務大臣による監督ではなく、放送事業者の自律によって番組の適正さを確保するという手法を採用しており、その手法をさらに洗練されたものにする、そのための工夫をすることが重要である。それについて、ドイツ語の論文も公表した。さらに、放送法制における青少年保護につてもドイツ語で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応募時の研究計画では、総務省による通信放送行政、とりわけ放送番組の内容にかかわる放送法の規制とその監督について、憲法学、とりわけ表現の自由の観点から詳しく検討を加えることや、放送事業者の自律を尊重するという放送法の特徴に適い、表現の自由の観点からみて望ましい規制の手法や、監督機関のあり方について具体的な提言を行うことを、2013年度に行う予定であった。しかし、ドイツで論文を公表する機会を与えられたため、2012年度、このテーマについてドイツ語で論文を公表することができた。 また、研究計画において2012年度は、2010年の改正で放送法に導入された番組種別・時間の公表制度について、すでにドイツ語で執筆した論文に基づき、日本語でも論文を執筆し、公表する予定であったが、実際には、放送概念(放送と非放送の区別)について、その特徴を分析するだけでなく、ドイツやEUとの比較検討を日本語の論文の中で行った。取り組むテーマの順番が応募時の研究計画とは異なっているが、順番が異なっているだけであり、交付申請書に記載した研究の目的からみて、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
日本の放送法制についてのこれまでの研究成果を、さらに発展させ、フルデジタル時代の通信放送法制のあり方を表現の自由の観点から検討することが本研究の目的である。ここで「フルデジタル時代」とは、衛星放送等による多チャンネル化、ケーブルテレビの発展による有線放送の普及に加えて、大容量のデータを高速で送ることのできるインターネットの普及による放送類似サービスの出現や、地上放送のデジタル化によって実現した携帯端末等による放送の移動受信など、放送を取り巻くメディア環境の変化を象徴する言葉である。 2010年、放送法は、通信を規律する諸法律とともに大きく改正されたが、その改正は、「通信・放送分野におけるデジタル化の進展に対応した制度の整備・合理化」という法改正の目的を果たせたのか、表現の自由の観点からみて克服すべき課題はないか、今後も具体的な論点をひとつひとつ検討していきたいと考えている。 その際、きわめて複雑で変化の激しい通信放送事業の実態を正確に把握しておくことは、通信放送法制の憲法学的考察にとっても重要であるため、通信放送事業の関係者へのインタビューを継続的に行う。これと並行して、日本の議論が比較法的にみたとき、どのような特徴を持っているかを明らかにするために、欧米先進国における通信放送法制についての調査を国内・国外の図書館や研究所においてあわせて行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
主たる研究経費は、国内外の通信放送法関連図書の購入と、国内調査及び外国調査のための旅費である。この他、論文執筆や資料整理のための文具等が必要になる。本研究は、研究代表者が単独で行うものであるが、研究代表者が通信放送法制について専門的知識の提供を受け、意見交換を行うために組織した、約10名の研究者や実務家によって構成されるグループがある。今後も、このグループを維持し、メンバーから専門的知識の提供を受けていく予定である。
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