研究課題/領域番号 |
24530030
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
井上 亜紀 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (20284466)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 財政調整 / ドイツ |
研究概要 |
2012年度は、ドイツのミュンヘン大学において、2006年、2009年度に行われたドイツ基本法改正、とりわけいわゆる財政憲法部分の改正に関連する資料を収集し、検討した。 この分野における基本法の改正は、2006年には、連邦による財政援助(104b条)および州の税率決定権(105条2a項)について行われ、さらに連邦と諸州間の財政関係の改革が期待されたが、ユーロ財政危機等の影響で委員会や議会における議論が財政問題に集中したことにより、2009年度の改正は、予算危機と起債制限に関する改正(109条、115条)にとどまっている。しかし、この改正に際し、憲法学者、財政学者、実務家等からは従来から問題になっていた連邦・諸州間の財政関係の改革に関する意見書等が多数出されており、これらの資料を収集し、それらを検討していくことで、多くの示唆を得ることができた。 たとえば、ドイツにおけるこれらの議論は、一方では連邦制の在り方に関わるものであり、そのため単一国家である我が国の議論と直接比較することはできないものの、他方で戦後(もしくはワイマール期から)統一的志向を強めてきたドイツの連邦制は、原則として連邦が立法権限を持ち、各州が執行権限を持つという点で、我が国の地方自治制度との共通点も多く、そのために、租税の配分・再配分に関し、誰が執行の負担を負うべきであるかなどのわが国の類似した問題を抱えており、これらについての憲法学的考察を整理することは今後の我が国の自治体財政の問題を考えるうえで、大いに参考になるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、2006年、2009年の基本法改正の中で特に連邦・諸州間の財政調整・財政援助制度の改正に着目し、連邦主義や社会国家原理等の憲法理念が改正後の財政調整制度にどのように具体化されており、それらは改正前後で変容したのかという点を明らかにすることを目的としている。研究実績の概要でも述べたように、今回の基本法の改正だけを見ると、憲法理念に目に見える変化は見られなかった。しかし、それをきっかけに、連邦主義や社会国家原理について議論が活発になされており、これらの議論は旧東ドイツ諸州への財政支援を定める財政協定IIが終了する2019年度に向けて現在も続いていることが明らかになった。そして、これらの議論を詳細に検討していくと、連邦主義等に関する論者によるとらえ方の違いも見られる。したがって、この財政調整に関する研究をすすめることで、現在のドイツにおける連邦主義や社会国家原理の一面を明らかにすることができると思われる。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2012年度に収集した資料の分析、検討を行い、並行して、2000年代以前の財政憲法に関する資料の収集を行う。 資料の分析、検討に際して、基本法および関連法の変更が、連邦や州の財政に具体的にどのような影響を与えているのかという点、それについてどのような評価がなされうるのかという点について注目する。 また、現在の連邦・諸州間の財政調整の基礎となった1967-69年の財政改革の際の議論を再検討し、これと比較することで、今回の財政改革の意義をより明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
図書購入費、資料収集等のための国内外の旅費、および資料の整理および論文作成に用いるパソコン等の物品費として使用する予定である。 特に、年度の後半にはドイツでミュンヘン大学のコリオート教授との面談を予定している。 また、2012年度は、海外研修の機会を得、2012年3月末から2013年3月末までミュンヘン大学にゲスト研究者として滞在して、主にミュンヘン大学およびバイエルン州立図書館の図書を中心に資料収集等を行ったために研究費をほとんど使用しなかったが、次年度は本務校である佐賀大学で研究を行うため図書費購入費、物品費等も昨年度と異なり多くなると考えられる。
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