研究課題/領域番号 |
24530030
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
井上 亜紀 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (20284466)
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キーワード | 財政調整 / ドイツ / 財政憲法 |
研究概要 |
本年度は、平成24年度に引き続きドイツにおける2000年代の連邦制改革における財政憲法をめぐる議論について検討を行い、同時に連邦制に関するドイツ及びわが国の文献等を収集し検討を行った。 連邦制改革は、連邦と州の立法権、行政権が錯綜し責任の所在が不明確になっているという問題を解決するために行われたものであり、その中で財政責任の明確化も重要な課題の一つとされていた。これを受けて、2006年の第一次改革では、連邦と州の共同任務が縮小され(基本法91a、91b条)、連邦と州の経費負担についての規定(同104a条)が改正された。さらに、第二次改革では、連邦と州の財政関係の「現代化」が目指されたが、この時期に欧州の経済危機が深刻化したために、議論が財政規律に関する点に集中し、その結果、2009年の第二次改革は、連邦や州の起債制限に関する基本法の改正がほとんどで、連邦と州の財政関係の「現代化」については、結論が先送りされた。 とはいえ、租税配分及び諸州間の財政調整のあり方等について、州の自律性の強化と財源保障という観点から議論された点はわが国の自治体財政をめぐる議論にとっても示唆的である。また、基本法104a条の改正について、執行者負担の原則から法制定者負担の原則への変更と捉える立場と、従来の執行者負担の立場が維持されているとする立場との対立がある点も興味深い。さらに、これらの議論は、ドイツの連邦制の特徴として挙げられる「協調的連邦制」の維持に関わっている。「協調的連邦制」とは、連邦と州が協力して任務を遂行することを指しているが、それぞれの責任を明確化し、州の自律性を強めることは、この原則を放棄することにつながるという指摘もあり、財政関係上の問題を連邦国家の在り方と切り離して議論することはできないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、ドイツにおける2000年代の連邦制改革、とりわけ財政制度をめぐる議論及びドイツの連邦制に関する議論について、資料を収集し、検討してきた。結論としては、2006年及び2009年の基本法改正では連邦と州の財政関係には大きな変更はなく、したがって、連邦主義や社会国家原理等の憲法理念の変更は見られない。しかし、改革後も続いている議論を詳細に見ていくと、これらの憲法理念へ影響を及ぼす見解が様々な形で示されていることが明らかになった。これらの議論は、必ずしも法的な主張だけではなく、様々な観点からなされており、分かりにくいところも多いが、これらを分析することで、現在のドイツで連邦主義や社会国家原理がどのように捉えられているかを明らかにできると思われる。 以上のことから本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでの分析をさらに進め、論文を執筆する。 ドイツの憲法理念の中でも、「協調的連邦制」との関連で、各法律改正や各議論を再検討し、整理する。その際、現在の連邦・諸州間の財政調整の基礎となった1967-69年の財政改革の際の議論、今後の連邦制改革以前から財政調整をめぐって提起された連邦憲法裁判所の判決なども参考にしながら、今回の財政改革及びそこでの議論の意義をより明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
①本年度は、ミュンヘン大学(ドイツ)のコリオート教授との面談を予定していたが、予定が合わずに渡航することができなかった。 ②文献等については、図書館等の図書を中心に資料収集を行ったために、図書費がほとんど発生しなかった。 図書購入費、資料収集等のための国内外の旅費、および資料の整理・論文作成に用いるパソコン関連用品などの物品費として使用する予定である。 特に、本年度はミュンヘン大学(ドイツ)のコリオート教授との面談を予定しており、その渡航費等が大きくなると考えられる。
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