研究課題/領域番号 |
24530030
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
井上 亜紀 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (20284466)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 財政調整 / ドイツ / 財政憲法 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、ドイツにおける地域間財政調整制度に関する文献と並行して日本の地域間財政調整制度に関する文献を収集し、議論をまとめた。 日本では、2004年に国から地方への税源移譲と国庫支出金等の補助金及び地方交付税の削減を内容とする地方税財源改革が行われた。この改革は、1990年代から推進された地方分権改革の一環として行われたものであるが、2000年以降の税財源改革が、分権よりも国の財政再建に向けて進められてきたこともあり、自治体への権限移譲に十分に対応しておらず、自治体の自立性を保障するための財源保障をいかに行うかが課題である。ところが、その方法をめぐって、財政力の違いにより、自己決定・自己責任をめざして税源移譲を求める自治体と補助金や交付税を通じた財源保障を求める自治体に分かれている。 同様の対立は、ドイツでも見られる。ドイツでは、従来州や自治体の財政需要ではなく、主に人口に基づいて税収の不均衡を調整する形で財政調整がなされてきたが、社会保障関連費の増大にともない、原因を作った立法者が負担すべきとして連邦に財政援助を求める主張が、特に財政力の弱い州から出されている。今のところ、立法者負担は執行者としての州や自治体の自立性を損なうとして執行者負担の原則(基本法104a条)が維持されている。しかし、連邦法に基づく自治体の社会保障関連費の増大に対して州が財政措置をとらないことを違憲とする判断が各州憲法裁判所で出されており、州の負担がさらに重くなることから、立法者負担への原則の変更を求める主張がより高まることが予想される。また、就業支援などの共同任務の分野での連邦と州の共同負担はすでに大きくなっていることも指摘されている。 このように、ドイツでも州や自治体の財政面での自立性の維持は困難であるが、このような現実の展開に対し、憲法理念に立脚した議論が展開されている点が特徴である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、ドイツにおける2000年代の連邦制改革、とりわけ財政制度をめぐる議論及びドイツの連邦制に関する議論と日本の地域間財政調整制度に関する議論について検討してきた。その結果、ドイツと日本で財政調整のあり方をめぐって同様の対立があることが明らかになった。今のところ、ドイツでは連邦制改革後も連邦と州の財政関係に大きな変更は見られず、協調的連邦主義の立場が維持されているが、社会福祉関連費の増大は弱小州にとって大きな負担となっており、制度改革をめぐる議論は現在も進行中である。このような現実の展開を憲法学説がどのように説明しているのかを分析することにより、わが国の財政調整制度に関する議論を憲法学的に考察するうえで大きな示唆を得られる。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでの分析をさらに進め、論文を執筆する。 これまで、特に「協調的連邦制」との関連で議論を見てきたが、現実の展開の中で社会保障費の増大が諸州間財政調整制度の観点からも大きな影響を持つことが明らかになった。そこで、今後は、「社会国家原理」との関連で、財政問題がどのように捉えられているかも検討の対象に加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
①26年度末に、ミュンヘン大学(ドイツ)のコリオート教授との面談を予定していたが、予定が合わず渡航することができなかった。②国内の文献を主に収集したために、図書費があまりかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
ミュンヘン大学を訪問するための旅費として使用する。また、図書購入費、資料収集等のための旅費、及び資料の整理・論文作成に用いるパソコン関連用品などの物品費として使用する予定である。
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