本研究は、2006年及び2009年に行われたドイツの基本法改正(第一次、第二次連邦制改革)の中で、特に連邦・諸州間の財政調整制度の改正に着目し、従来の連邦主義や社会国家原理に何らかの変容があったのかを検討した。この改正により、連邦と州が共同で任務を遂行し財政責任を負う共同任務の対象から大学の設置が外され(91a条)、金銭等の給付を州に義務付ける連邦法律については連邦参議院の同意を必要とする(104a条)等の改正が行われたものの、連邦と諸州間の税源配分についての枠組み(107条)は維持された。 この税源配分については、州の自立性の確保という観点から、連邦と州の共同税の廃止や諸州間の水平的財政調整の廃止が、特に財政的に豊かな州を中心に主張されていた。しかし、共同税の廃止は弱小州にとってますます不利であること、後者は州による財政調整制度を廃止し連邦からの補充割当金を増やすことで連邦への依存を生じさせること等、むしろ自立の妨げになるという指摘もあり、改正には至らなかった。そのため、少なくとも財政調整の領域における基本法改正は、従来のドイツの連邦制のあり方に大きな影響を与えるものではなかったと評価できる。 もっとも、旧東ドイツのための連帯協定Ⅱが2019年に期限を迎えることもあり、現在も税源配分・財政援助制度をめぐる議論は活発になされている。特に、社会保障費の負担について2010年に91e条が追加され、連邦法に基づいてゲマインデが実施する求職者支援事業の費用を連邦が負担することとされたように、連邦と州の間の費用負担を定めた104a条の牽連性原則についても、執行者負担の原則ではなく立法者負担の原則へと解釈すべきという主張が強くなされている。この原則の変更は、単なる財政関係にとどまらず連邦と州の本質的な関係に決定的な影響を与えるものであり、今後の研究課題としたい。
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