研究課題/領域番号 |
24530032
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
松平 徳仁 帝京大学, 法学部, 講師 (70554872)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / アメリカ / 国際情報交換 / 台湾 |
研究概要 |
本研究は、一般化可能な比較憲法研究のモデルを、東アジアにおける民主化、ネーション・ビルディングと立憲主義の相互関係を明らかにする試みである。上述の目的を達成すべく、初年度計画として、①アメリカの比較憲法研究者との意見交換、②アメリカにおける比較法・東アジア法の研究機関との交流を通じて研究を進めることをあげていた。平成24(2012)年度は、計画のとおり主張等の活動が行われた。 2012年8月から9月、アメリカ出張を行い、アメリカにおける東アジア法研究の拠点の一つであるワシントン大学(シアトル)ロースクール、比較憲法研究の拠点の一つであるハーバード大学ロースクール(ケンブリッジ)でそれぞれ資料収集とインタビューをした。本研究の重要項目の一つである台湾現行憲法(1946年憲法)の起草過程に寄与した著名な法学者Roscoe Poundが残した関係資料を見つけたことが最大の収穫であった。 また、民主主義を利用して自己保存と近代化を図る伝統的な共同体と国家の相互関係について、日本の近代化過程が重要な先例であり、それについて2012年10月、早稲田大学で開かれた全国憲法研究会で報告を行った。アメリカの先住民共同体とネーション・ビルディングについては、2012年11月、ハーバード大学ロースクールで開かれた先住民法と連邦司法シンポジウムに参加し、専門家らと意見交換を行った。 上述の環境整備をふまえ、一年目の研究成果のまとめとして、2013年3月早稲田大学で開かれた日本・台湾憲法学共同研究の研究会で、共同体による民主的政治過程の利用と立憲主義の憲法原則と緊張関係にたつというテーゼについて報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、台湾を題材に、「民主化」運動の反=立憲主義的な側面を明らかにし、民主化は手放して礼賛すべきものではなく、多数派エスニック集団がそれによって自らのエゴの法的承認を得ようとしているという点、すなわち民主主義と立憲主義の緊張関係をあきらかにすることを目的としている。そしてこの緊張関係は、特殊地域的なものではなく、比較憲法研究を通じて一般的な論証が可能と本研究は考えている。初年度の研究は、この、「比較憲法研究」の環境整備を重点として行われた。おおむね所期の目標を達成していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)まず、過去1年間の研究成果を基盤として、民国期中国(1912-49。本研究との関係ではとりわけ1946年憲法制定前後の時期を中心に考察する)と台湾を例として、伝統的共同体が立憲主義を建前とする国家と出会うとき、その共同体でnation buildingを志すエリート層はどのようにしてその建前を認識し真似をするか、そしてその模倣がいかにして共同体全体を巻き込む運動となりえたか、あるいは、なりえなかったかについて、中間報告として論文の執筆を行いたいと考えている。これまでも東アジアなかんずく中国語圏における立憲国家の形成に関する比較憲法的研究の蓄積があるので、比較的早い段階で試論を提示できると考えている。具体的には、2013年中に、草稿を書き上げる予定である。 (2)つぎに、平成25年度に新たに取り組む課題として、東アジア新興民主政(戦後日本、韓国、台湾)の学界に大きな影響を与えたフランス・ドイツの憲法制定権力論の再検討・再定義を行いたいと考えている。この点もふくめ、ドイツの憲法学者で現在フライブルク大学教授のRalf Poscher氏から、古典期のドイツ憲法理論を今日に再点検することの必要性とその方法について貴重な示唆をいただいた。氏自身、19世紀の「市民的法治国」概念を民主制の機能的代替物として再発見するなど、古典的憲法概念の再解釈に関する優れた研究業績があり、実定憲法のレヴェルで憲法制定権力を読み直すためには氏との意見交換が必要不可欠である。そこで、文献調査を兼ねて、ドイツ(必要であればフランスも)出張の機会を確保したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度研究費の使用計画は以下のように予定している。 (1)研究環境整備:所属の研究機関の変更に伴い、新たな物品の購入・整備が必要になった。具体的には、持ち歩き可能な軽量ノートパソコン、資料をPDF化するための機械などである。 (2)(1)と同様の理由で、新しい所属研究機関で直接利用するために、図書を購入することである。 (3)平成25年2月に予定されていたアメリカ出張(比較憲法研究会)は、所属研究機関の用務で延期となったが、次年度に行う予定である。また、そもそも研究計画に書いてあるように、ドイツ(フライブルク大学)と台湾(台湾大学法律学院)への出張などで研究費を使用する予定である。
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