本研究の最終年度にあたる平成26年度は、最初の予定どおり、先行研究・中間研究をふまえて、東アジアにおける民主化は同質的なネイション・ビルディングの手段としておしすすめられたものであり、またそうである以上、異質的なものとの共存、個人の尊厳と政治的多元性を尊重する立憲民主政とは緊張関係にある、との結論に到達した。その前後から、国内外の研究会合で研究成果を発表し、コメント・フィードバックを得るようつとめた。26年3月、台北でヒマワリ学生運動が進行中であったが、対中国の文脈で自説を検証すべく現地の憲法学者と有意義な意見交換を行った。26年9月、アメリカ出張の機会に、アメリカ政治学会の年会に参加し、Sandy Levnison教授の紹介で、同教授が担当するパネルで参加者とネイション・ビルディングの射程について議論した。26年11月、ボストン大学ロースクールの招請で同校で報告を行い、前述の理論的枠組みを使って日本の憲法状況について説明した。同12月、シアトル・ワシントン大学ロースクールで、みずから日本について報告するほか、台湾・香港・シンガポールにおける民主化とナショナリズムについての報告にかんしても、報告者と活発な意見交換を行った。27年3月、一橋大学で開かれた第3回比較憲法若手研究会でコメントを担当し、ネイション・ビルディングと民主主義という回路にたいして、立憲民主政によるステート・ビルディングという回路も重要であり、この地域の憲法状況にとって今後後者がもつ意味が重要になってくると指摘した。
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