研究課題/領域番号 |
24530043
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 淳司 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (20183080)
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キーワード | TPP / 経済規制の国際的調和 / 国有企業規律 / 国際投資法 / メガFTA / 地域貿易協定 |
研究概要 |
本年度は、地域貿易協定を通じた経済規制の国際的調和に関する実証研究として、交渉中の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)における経済規制の国際的調和の規定内容を分析した。TPP交渉に関連する公文書(各国提案など)は公表されていないが、日本政府(外務省・内閣官房TPP政府対策本部など)や他の交渉参加国政府(特に米国通商代表部)のウェブサイトに公表された資料、貿易関連のニュースサイト(Inside U.S. Trade, International Trade Reporter)、メディアにリークされた交渉文書などに当たることで、TPPの詳細な内容を予測することができる。TPP交渉の背景と意義、交渉過程における経済規制の国際的調和をめぐる主要な争点と各国の立場、予測されるTPPの内容を分析し、その結果を後述の論文その他にとりまとめた。 TPPは「広範囲・高水準の21世紀のFTAのモデル」を目指しており、経済規制の国際的調和に関しても広範囲にわたり高水準の規律を設けようとしている。その対象はWTO協定がカバーする産品貿易・サービス貿易・知的財産権に関するWTO協定を上回る水準の規律(WTOプラス)と、WTO協定がカバーしていない投資・競争・規制制度の整合性などの分野における国際的調和に関わる規律(WTOエクストラ)の2群に大別される。前者では特に、特恵原産地規則の統一、サービス貿易に関して電気通信分野のいわゆる参照文書の内容の一般ルール化、知的財産権に関する広範囲のTRIPSプラスが重要である。後者では特に、投資に関する高水準の保護、競争に関する国有企業(SOEs)への財政上・規制上の優遇の規律、規制制度の整合性に関する中央規制調整機関の設置が重要である。 TPPは、広範囲・高水準の経済規制の国際的調和を通じてサプライチェーンのグローバル化にふさわしい規制・制度環境を実現しようとしていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
地域貿易協定を通じた経済規制の国際的調和は国際機関を通じた国際的調和作業を補完する意義を有するが、WTOドーハ交渉の難航が典型的に示している後者の機能不全状況が続く現在、少数の国が国際的調和作業を積極的に進めるための手段としてより積極的な機能を担うようになっている。TPPはそのような傾向の最先端をゆく地域貿易協定である。 本年度の研究を通じて、TPPによる経済規制の国際的調和の意義と背景、そしてその進行状況と予測される規律内容を相当程度明らかにすることができた。本年度内に研究成果の一部について国際研究集会(2013年6月に台北、7月にソウル、11月に台北、2014年2月に台北)及び国内の学会(国際法学会研究大会と日本国際経済法学会研究大会、いずれも2013年10月)で発表するとともに、研究成果の一部を英文および日本語の論文として公刊した。
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今後の研究の推進方策 |
TPP交渉は最終段階に入っており、研究の最終年度である2014年度中に交渉が妥結する見込みである。本年度は、TPPによる経済規制の国際的調和の全貌を分析し、国際研究集会(2014年6月にベルリン、7月にベルン)、ベルリン自由大学での学部講義・大学院演習(2014年4月~7月)、東大大学院の演習(2014年10月~2015年1月)で研究成果の一部を公表するとともに、研究成果を英文の単著として刊行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度内に全額使用を心がけたが、若干の金額を残した。主に購入した洋書の単価は一般に高額で、未使用額で購入できるものはなかった。 次年度は最終年度であり、次年度使用額を含め年度内に全額使用するよう、計画的に支出してゆく。
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