本研究の最終年度として、過去3年間で得られた知見をふまえて、日本として国際家事調停の履行確保にどのように対処すべきかをまとめることに注力した。その中で、以下の知見が特に参考となった(以下の記述では日本の調停とは質的に異なるMediationについてメディエーションとする)。①EU域内ではメディエーションや裁判外の和解等でえられた合意の国際的な執行力確保についてブリュッセルIIbis規則において法整備がされているものの、実際のところはうまく機能していないこと。②ブリュッセルIIbis規則はEU域内でのメディエーション合意や和解合意についての手当がほとんどされていないこと。③EU以外においてはメディエーション合意や和解合意についての国際的執行力確保において課題が山積されており、実務においては、当事者が異なる国に所在している場合にはそれぞれの国においてそれぞれの国の中での執行力確保をめざすのが精一杯であり、それすらも困難な場合があること、である。 特にハーグ子奪取条約については、子の返還をめざすという目標の一方で、子を連れ去った先の国から親権に関する管轄権を剥奪するという隠れた目的があることも種々の論稿で指摘されているところであり、そのためにそれぞれの国において合意の執行力確保をすることが非常に困難になっているという問題が明らかになりつつある。 このように法律上の制度が未発達ないし整備されていない状況においては、各国のメディエーション担当機関ないし中央当局やハーグネットワーク裁判官による個別のアプローチによる対策に頼らざるを得ないというのが現状であることが確認できた。
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