研究課題/領域番号 |
24530048
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
柴田 明穂 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (00273954)
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キーワード | 国際法学 / 条約 / 環境条約 / 捕鯨事件判決 |
研究概要 |
本研究は、時の流れと共に変わりうる国際社会における利害関係や各国の選好、更には国際世論や価値観に条約体制が内発的に適合しその規律方法や対象を変容させていくダイナミックなプロセスを国際法的に根拠づける理論的支柱として、実質的・共同体的・プロセス的な「条約体制内合意」という概念を提示し、その成立背景や条件を提示することを目的に行われている。 H25年度の研究の最大の成果は、環境条約制度内における合意形成につき、2010年に採択された名古屋・クアラルンプール補足議定書を、生物多様性条約体制の「発展」と捉えて、その国際法的意義と課題につき検討を行った研究代表者の単独英文編書「International Liability Regime for Biodiversity Damage: The Nagoya-Kuala Lumpur Supplementary Protocol」(柴田明穂編、ラウトレッジ社、282頁+xv(2014年3月)を発刊したことである。本書は、既存の条約制度の枠組みを維持しつつ、国際社会の要求に応えるため、遺伝子組み換え生物を原因とする生物多様性損害に対処する新たな責任(ライアビリティ)制度が如何に構築されたかを分析している。 第2に、H25年度の最大の課題であったICJ南極捕鯨事件の分析を、オランダ・ハーグでの口頭弁論の傍聴を含め、集中的に行った。判決は3月31日に言い渡されたため、判決の分析はH26年度の課題となる。この事件は、国際捕鯨取締条約(ICRW)の発展的解釈ないし条約機関IWCの決議を通した発展の可能性につき両国がその主張を展開しており、条約制度内合意のあり方に関する裁判所の判断が注目されるところである。なお、ハーグ出張と合わせて、ジュネーブで開催中の国連国際法委員会(ILC)も一部傍聴し、「条約の解釈における後の合意及び慣行」の議論を引き続きフォローした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究目的に記載したとおり、本研究は、ILC「時間の経過と条約」の議論を参考にしながら条約体制の変容・発展現象をいかに説明しうるかにつき検討するものであるが、H24年度の研究でILCにおける当該議論を踏まえて理論枠組を整理し、H25年度の研究において、その理論枠組の妥当性を検証する国際慣行の分析に着手することができており、当初の予定どおり順調に進展している。 本研究は、「条約体制内合意」が具体的に発現し条約制度がダイナミックに発展している環境条約を主な題材として検討することを目的としているが、この点につき、2010年採択の名古屋・クアラルンプール補足議定書の国際法的位置づけにつき、全15章からなる包括的研究を上記編書としてまとめられたことは、本研究の成果として特筆できる。また、資源管理レジームである国際捕鯨取締条約の「発展」可能性につき、国際裁判での当事国の主張とその判決を題材に検証をすることができており、実証研究の面でも当初の予定以上の研究進捗が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、本研究の最終年として、「条約制度内合意」の成立基盤について、実証研究の成果を再度理論枠組にフィードバックして、次のより本格的な研究の素地を確立する。具体的には、2014年3月31日に下されたICJ南極捕鯨事件判決を詳細に分析し、その研究成果を国際法研究会、5月末に神戸大学で計画する国際シンポジウム、そして9月の国際法学会等で報告し、論文としてまとめていく。 環境条約制度内合意の成立基盤については、引き続き、生物多様性条約を中心にフォローし、10月に予定される関連会議への出席を通じて、2014年3月に発刊された上記編書の内容検証を続ける。また、次の本格的研究フェーズを念頭に、条約体制が既に存在している南極条約における「極地管理」と条約体制が存在しない北極における「極地管理」のあり方の相違につき、前提的研究を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額23,900円は、ICJ捕鯨事件判決の印刷製本代として利用する計画であったが、判決が3月31日に下されたため、次年度に繰り越すことになった。 ICJ捕鯨事件判決の印刷製本代他、必要な文具として使用する計画である。
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