本研究は、時の流れと共に変わりうる国際社会における利害関係や各国の選好、更には国際世論や価値観に条約体制が内発的に適合しその規律方法や対象を変容させていくダイナミックなプロセスを国際法的に根拠づける理論的支柱として、実質的・共同体的・プロセス的な「条約体制内合意」という概念を提示し、その成立背景や条件を提示することを目的に行われている。 最終年度となるH26年度は、環境条約、南極条約、そして国際捕鯨取締条約の発展過程を分析した著書、論文、学会報告が行われ、本研究の集大成とすることができた。まず環境条約制度内における合意形成につき、2010年に採択された名古屋・クアラルンプール補足議定書を、カルタヘナ議定書体制の「発展」と捉えて、その国際法的意義と課題につき検討を行った研究代表者の単独英文編書「International Liability Regime for Biodiversity Damage: The Nagoya-Kuala Lumpur Supplementary Protocol」(柴田明穂編、ラウトレッジ社、282頁+xv(2014年4月)が発刊された。南極条約体制の発展とその国内法的担保の課題を分析した論文「南極環境責任附属書の国内実施―日本の課題と展望」『国際法学の諸相』(信山社、2015年1月)も刊行された。国際捕鯨取締条約(ICRW)の発展的解釈ないし条約機関IWCの決議を通した発展の可能性という視点からICJ「南極海捕鯨事件」判決を分析した学会報告「ICRW as an Evolving Instrument: Possible Broader Implications of the Whaling Judgment」(国際法学会、2014年9月)を行った。 これらの研究成果を通じて、現代的な条約体制内合意のあり方の一端が明らかとなった。
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