フランスの援助付雇用、日本の中間的就労に関する昨年度の研究業績を基礎として、フランスの研究者との議論もふまえ、両制度を比較し、その背景にある思想の流れを検討する論文(仏語)を発表した。また、生活困窮者の保護をめぐり生活保護法と周辺制度に近年生じた変化を全体として検討し、整理することを試み、この点について邦語論文を発表した。 日本でも、フランスでも、長期失業・若年者失業対策としての就労支援策と、生活困窮者・生活保護受給者が社会とのつながりを喪失することを防ぐための就労の機会の提供・就労支援策という二つの視角を持つ政策が発展しており、当初別のものとして構想されてきたこれらの政策が接近する傾向がみられる。その背景には、日本の場合、「自立」概念の多義的な解釈(就労による経済的自立に加え、社会的・日常生活上の自立を読み込む)がある一方、フランスの場合には、「統合(Insertion)」概念(同様に、労働による雇用社会への統合に加え、社会参加を通じた社会への統合(社会的排除:ソーシャルエクスクルージョンの対義語として)といった意味を含む多義的な概念として理解される)が存在する。こうした動向や、これらのいわば抽象的ともいえる概念は、長期・若年失業の増加、福祉に関する関するいわゆるアクティベーションをめぐる議論、さらには、「働く」ことにより個人が社会とのつながりを維持することの重要性が意識されること、といった異なる背景をふまえ、失業・生活困窮者対策を包括的に行うために有用なものと考えられる。他方で、フランスでも、日本でも、こうした議論の中で「労働」に様々な意味が付加される一方、そこで行われる「労働」の中身については、必ずしも議論が詰められていないこと、結果として、こうした労働ないし労働類似の活動がどのような条件と限界の下で行われるべきかが必ずしも明らかになっていないという問題がある。
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