本研究は、重度障害者に対する賃金保障制度について、オーストラリア、カナダ、アメリカ、台湾との比較に基づき、第1に重度障害者に対する賃金決定の算定、査定方法について、第2に査定による障害者の能力評価と障害年金による所得の保障のあり方について研究をおこうことを目的としている。 平成26年度については、カナダ、台湾、熊本で調査をおこなった。カナダでは、オンタリオ州の障害者所得保障プラン(公的扶助)が障害者の就労移行に対して与える影響を評価するため、オンタリオ州の省庁を訪問し、また障害者雇用の就労実態をするために障害者雇用支援機関や障害者雇用に積極的な企業を訪問し、調査をおこなった。台湾では、年金や生活保護などの所得保障政策が障害者の就労移行に与える影響をするため、台湾政府衛生福利部國民年金監理委員會、台湾政府衛生福利部社会及家庭署、生活保護を管轄する台北市社会局を訪問し、調査をおこなった。熊本では、障害者就労継続支援事業A型およびB型の施設を訪問し、就労実態や一般就労移行の現状について調査し、また熊本県庁を訪問し、県の取り組みについて調査をおこなった。 平成26年度には、前年度までの調査を踏まえて研究成果を発表している。1つ目は、台湾における授産施設の賃金算定、査定方法と政策による一般就労への移行を阻害する要因について考察した「台湾における障害者に対する賃金政策と職業リハビリテーション」(『季刊労働法245号』(2014年)133-149頁)である。2つ目は、オーストラリアにおける障害者の能力比例型賃金査定方法と障害年金の関係については「オーストラリアにおける障害者に対する賃金政策と所得保障制度の展開:障害年金(DSP)と能力査定型賃金制度(SWS)の成立」(『中京法学49巻1・2号』(2014年)1-64頁)である。
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