研究課題/領域番号 |
24530069
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
王 雲海 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (30240568)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 海南 / 中国の死刑制度 / 死刑改革 / 経済犯罪 / 麻薬犯罪 / 凶悪犯罪 / 公務員犯罪 |
研究概要 |
平成24年度は主に二つの面で研究を進めた。 まず死刑改革の具体的状況を、法制度レベルと実際レベルの両方から追跡的に研究、把握し、その全体状況を掴んで、日本やその他の国々の学会と社会に発信した。 次に死刑に関する中国の民衆の考え・民意を究明することを中心に研究してきた。いまの中国では、外国の研究機関は死刑などの敏感問題について世論調査などを行うことがほぼ不可能であるが、海南師範大学法学院に頼んで一部の学生に聞き取りしたり、知人などへの質問をしたりすることなどをを通じて、部分ながらも中国の民間が死刑に対して持っている本当の考え方を垣間見て、不完全ながらも一部の民衆の真意を掴むことができた。その結果、次のことが分かった。つまり、死刑に対する中国政府の考え方と民間の考え方は完全に一致すると従来宣伝されているが、実は、互いにかなり違っており、「中国の民衆は政府以上に死刑の多用を望んでいる」と従来言われているが、決してそうではないのである。むしろ、犯罪の種類によって、死刑に対する姿勢において、政府と民間とはかなり異なっており、殺人、強盗、強姦などのいわゆる「凶悪犯罪」、および、収賄などの「公務員犯罪」に対して、中国政府は死刑の減少へ方向転換しようとしているのに対して、民間はむしろ政府以上にそれらの犯罪に対する死刑の多用を求めている。逆に、経済犯罪や麻薬犯罪に対して、中国政府は死刑の多用をも辞さない姿勢であるのに対して、民間は言われるほど死刑の適用を望んでいないのである。 死刑に対する姿勢は罪種により政府と民間との乖離がある、というこのような結果はこれまでの中国死刑研究の中ではあまり把握されていないものであるが、平成24年度の研究を通じてはじめて明らかになった。本事業はこのような独自な研究成果があったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本事業の第1年目である平成24年度では、まず、中国での死刑改革を、刑法、刑事訴訟法の監獄法の改正との関係で制度的に研究、把握して、見えるような制度的改革だけでなく、裁判所の内部での司法解釈、裁判官の実際的裁判での裁量傾向の変化をも調査などを通じて研究、把握し、見えざるような実践暦改革をも研究視野に納めることができた。言い換えれば、理論と実際、表と裏という複数的な視点とその結合を通じて、中国での死刑改革の状況を全面的にかつ深く探ることができた。これは本事業の研究目的からすれば大変重要な成果である。これからの研究遂行にとって予想を超えるようなスタートを切ることができたといえる。 次に、制度レベルだけでなく、また、表の政府の見解・動きだけでなく、民衆や世論の実際の姿と死刑改革との関係も重要として、政治指導者や法律専門家のほかに、民衆や世論が現在の死刑多用に対しての本当の考え方を究明することも必要であるというのは、本事業の当初の研究目的設定の一部であり、また、本事業の特徴でもあるが、民意調査が基本的に許可せず、特に外国との関係のある機関や研究者による民意調査がさらに不可能な状況のなかで、本研究は海南師範大学などの協力を得て、公表上の制限を受けながらも一部の学生や市民に聞き取りなどの方法を通じて、死刑多用とその改革に対する民衆の本当の考え方を掴むことができて、罪種により政府と民間の考え方には大きな乖離があることが突き止めることができた。この類のような研究はいままであまりなく、研究上の意義が極めて多いし、本事業での研究目的の達成にとって大変有利である。
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今後の研究の推進方策 |
本事業の2年目である平成25年度において次のように本研究を進めていく。 まず、引き続き中国での死刑改革のあらゆる動向を随時に追跡し、制度面と実際面、表と裏との双方からその実態を明らかにして、日本や国際社会には発信していく。 次に、平成24年度で行った民意・世論と死刑改革との関係の研究をさらに補強し、許される範囲においてそれをさらに検証して公表するように努める。 第三に、「中国の政治指導者と死刑改革」という本事業のもう一つの視点を中心に、政治的理論・政治的イデオロギーの変化と死刑改革との関係を研究して、それを理論的に整理し、その研究成果をまとめて公表する。 第四に、欧米、特に米国での中国死刑制度の研究者と交流して、日本以外のところでの研究状況を把握して、それらを日本での研究に生かすことができるように努力し、できれば本事業での研究成果を英語で論文にまとめて発表し、世界に向けて発信できるように欧米の雑誌社や出版社と交渉していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においては、「中央としての北京と地方としての海南省」という二重的視点や問題意識をもって、前半では、海南省への出張を中心に死刑改革の実態を随時に調査した。後半は北京を中心に調査しようとしたが、残された本事業の費用はわずか22000円であったので、足りなかった。そのために、平成25年度は北京と海南省の両方への調査、そして、米国の研究者や雑誌社・出版社との交渉のための米国への出張を中心に、残された22000円を含めて、平成25年度の研究費を有効に使っていこうと計画している。
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