研究課題/領域番号 |
24530069
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
王 雲海 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (30240568)
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キーワード | 民意 / 死刑 / 死刑改革 / 中国の死刑制度 / 即時執行死刑 / 2年猶予つき死刑 / 経済賠償と死刑回避 / 司法解釈 |
研究概要 |
平成25年度では以下の四つのことを中心にして研究を遂行してきた。 第一に、「中国の政治指導者と死刑改革」という視点で、新しく登場した習近平指導の刑事司法への理念を探り、特に2013年11月に召集された中国共産党第18回中央委員会第1回総会において採択された「改革開放をさらに深化するための決議」のなかで司法改革、特に刑事司法改革、死刑改革に関する部分を詳細に検討して、新しい指導部では、死刑改革をさらに進めていくことを確認した。同時に、新しい指導部は完全無条件的に死刑を減少しようとはしておらず、あくまでも一部の死刑適用に限ってその減少を図っていく理念であることも判明し、中国での死刑改革、死刑減少の不確定性・流動性も依然として残っていることを明らかにした。 第二に、中国共産党の死刑改革の理念が実際の刑事司法、死刑適用においてどのように実施されるかを視点にして、死刑制度改革の立法レベル、司法レベルでの変化または措置を詳しく調べた。その結果として、全国人民代表大会は一切死刑罪名を新設しないこと、また、司法レベルにおいては、中国の最高人民法院は、婚姻、家庭、隣居などに絡んでの殺人などの重大な刑事事件であっても原則として即時執行死刑を適用しないこと、加害者側が被害者側に積極的に損害賠償をしていれば即時執行死刑を回避することができることを、司法解釈を通じて法規範として全中国の裁判所に実施するようにさせていることが判明した。 第三に、海南島を中心に引き続き死刑に対する市民・民間の意識を聞き取り調査などの方法で探った。その結果として、市民、特に若い世代の市民は殺人や強盗殺人などの凶悪犯罪への死刑適用を積極的に求めるものの、それ以外の犯罪への死刑適用をむしろ拒絶するような認識であって、それをインタ―ネットを通じて積極的に発信しており、中国での死刑適用を大いに影響していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究について、2年間経過した現時点では、その達成度が80%と言ってよい。その根拠として以下のことがあげられる。 まず、当初予定通りに中国での死刑改革のあらゆる制度的変化と実務的な動きを追跡的・随時的に把握し、それを日本や欧米などに迅速的に発信している。また、日本や米国での死刑に関する動向も中国の学会や実務界に随時伝えて、中国での死刑改革の促進に努めて、影響力を発揮している。 次に、中国での死刑の制度的改革と実務的変革の裏にある構造やダイナミクスにも研究の手を伸ばして、国・政治指導者の死刑意識と民衆・民間の死刑意識を区別して、それぞれの中味を困難を伴いながらも探って、両者の相違を明らかにして、犯罪の類型による両者の態度上の違いを示している。これはいままでの研究の中にはないような研究手法でもあり、研究成果でもある。この研究は独自な成果をかなり達成できていると言える。 最後に、これまでの研究成果をすでに日本語、中国語、英語で日本以外の中国、米国などへ発信できただけでなく、米国のコロンビア大学出版社と仮契約をして、本研究の成果を内容とする論文を含む英語の本を本研究の最後の年度である平成26年度内に出版する運びになっている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成26年度においては、以下の三つの方策をもって本研究を完全に出来上がるようにする。 第一に、引き続き制度面と実務面の両方から中国での死刑改革のあらゆる同行を追跡し、随時把握して、日本や米国やその他の世界に向けて発信する。同時に、制度的または実務的改革の背後にある政治指導者の死刑意識と民間の死刑意識の確認を行い、その変化を随時掴むようにして、中国での死刑改革の制度面的または実務面的動きだけでなく、その背後関係をも明らかにしていく。 第二に、これまでの研究をまとめられるような理論的仕組みの構築に努めて、中国における死刑改革に対して理論的・学術的検討を体系的に加えて、本研究ならではの学説を作り、中国における死刑改革の将来像を科学的に提示する。 第三に、これまでの研究成果および平成26年度で行われる研究の成果を英文でまとめて、米国のコロンビア出版社に提出して、できれば、本研究が終了する平成26年度末に米国で本を出して、世界に発信する。同時に、中国語の論文発表や講演などの形を通じて、本研究の成果を中国にも伝えて、そこでの死刑改革を促進するように努める。
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