研究課題/領域番号 |
24530072
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
日山 恵美 広島大学, 法務研究科, 准教授 (80559229)
|
キーワード | 刑事過失 / 海上交通 |
研究概要 |
平成25年6月11日に海上自衛隊護衛艦「あたご」・漁船「清徳丸」衝突事件に関する控訴審が出されたので、本判決の検討を行った。 本判決は、原判決と同様に検察官が主張する時点における両船の見合い関係の成立は否定し、原判決の結論を相当と判断したものの、さらに、衝突により近い時点においては、「あたご」に別個の注意義務の発生が肯定し得ることを示唆している。この控訴審が示唆する注意義務は、「無難に航過すると判断」できる態勢となった後に「新たな衝突の危険」が発生した場合に、なおも衝突回避措置をとる義務を、速度・針路を変更していない側の船舶に課すことを肯定するものである。 このような「新たな衝突の危険」が発生した場合については、民事事件における判例においては「新たに衝突の危険を惹起するに至った」船舶に避譲措置を講じる義務を課していることとの整合性が問題となる。本判決は「あたご」の灯火の特殊性を根拠として、「あたご」に避航義務を認め得るとしているが、これは「無難に航過すると判断」できる態勢から後に「新たな衝突の危険」が発生したということではなく、そもそも「無難に航過すると『判断』」できない(し難い)ものであったということと考えられる。海上衝突予防法の遵守では対処し得ない特殊ケースと判断しているものと思われる。 衝突直前に至るまで見張りを怠っている同種事案との比較検討や、「無難に航過すると判断」できる態勢が後に変化した場合の船舶間の注意義務の関係についての考察が必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度に予定していた海上交通事故に対するわが国の刑事裁判結果の整理および分析、イギリスにおける海上交通事故に対する刑事裁判結果の収集は順調に進んだ。 しかし、平成25年6月に新たに注目すべき重要な判決が出されたため、更なる検討が必要となったため、また、イギリスにおける海上交通事故に対する刑事規制システムに関する最新文献の発刊がさらに年度を越したため、予定していた刑事規制の比較が十分に進んでいない。
|
今後の研究の推進方策 |
海事知識や操船知識のみならず捜査経験を有する海上保安官との検討会を実施し、知見を得て考察を深める。また、海上保安庁は海上交通の安全を担っている行政組織でもあるので、刑事規制のあり方の考察にあたり、海上交通安全行政を所掌する担当部署におけるヒアリング・検討会を実施する。 本年度が最終年度であり、新たな重要な判決が出され、この判決が呈している課題の検討を優先する必要があるため、比較法的研究はイギリスに絞って行うこととする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者と海上保安庁担当者との日程調整が整わず、平成24年度から繰り越したことで可能となった計画分の研究打ち合わせが実施できなかった。また、購入予定の外国文献が平成26年度に発刊予定となったこと、6月に出された判決の検討を優先する必要が生じたため、比較法的観点からの研究が十分に進まないことが見込まれたため、外国文献の購入を次年度に予定することとした。 国内の関連文献についても、祝賀論文集の発刊が予定されていたため、次年度の購入とした。 発刊を待っていた外国文献および祝賀論文集の購入が必要であり、また航海学会などで出されている論文のWEB利用が可能であることが分かったため、その費用として使用する。 海上保安庁における研究打ち合わせを、刑事事件捜査を所掌とする担当部署に加えて、海上交通安全を所掌とする担当部署とも行うことを計画し、旅費として使用する。また、刑事裁判結果の閲覧の必要が生じた場合(海難事件は公刊されないことが多いため)や公判傍聴の必要が生じた場合(瀬戸内海で発生した海上自衛隊の輸送艦と遊漁船との衝突事件が起訴された場合)には旅費として使用する。もっとも、これらの必要性の判断は早期に行う。
|