研究課題/領域番号 |
24530076
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 哲生 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80230572)
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キーワード | 保険 |
研究概要 |
日本の保険契約における因果関係論では海上保険における議論が一般論としても参照されることが多く、その点で若干一般論としては不適切な議論がみられる。たとえば、海上保険はオール・リスク型であり、包括的に危険を引き受けるという形をとりつつ、免責条項で担保範囲を限定するという形になっているところ、そのような形式を背景として因果関係が議論されることがある。このような議論は保険契約における一般論としてはそのまま採用することは適切ではない。 アメリカにおける保険契約に関する因果関係論について、研究を進めた。アメリカではこの問題に関する判例は錯綜しており、アメリカの研究者自らが、これを整理することはできないと述べるほどである。したがって、判例の状況としてアメリカの法状況を明確にする試みはあまり有益ではない。重要なのは、様々な因果関係についての考え方を抽出することである。基本的な発想において、特徴的なのは、免責危険と担保危険が協働してれば免責という考え方は伝統的な考え方ではあるものの、現在では、保守的アプローチといわれることもあり、あまり支持されていないことである。これは日本の一般論としてよくいわれるところとは対照的である。そして、複数の原因が協働している場合にはどれが近因かで判断する近因アプローチが最もひろくみられるものであるが、それだけではなく、複数の原因のうち1つが担保危険であれば保険者の責任を認めるリベラル・アプローチもみられる。リベラル・アプローチの妥当範囲については、第一当事者保険と責任保険で異なるという議論がみられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の議論状況をまとめたうえで、アメリカの議論についての研究を進めている。アメリカでの議論は錯綜しているが、根本的なところで日本とは異なる考え方がみられる。すなわち、免責危険と担保危険が協働している場合には、どちらが支配的な原因(近因)かで責任の有無を判断する考え方が根強いのであるが、近因の判断の不明確さなどから批判も強い。しかし、批判的見解は協働の場合には、保険者の責任を認めるという方向で議論しており、日本のように免責を認める議論はむしろほとんど支持されていない。このような状況であることから、何らかの示唆を得ることが期待されるところであり、おおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカでは、因果関係論は、最近の展開としては、ハリケーンや地震を素材として議論されているという側面が大きいようである。この点は事前には認識していなかったことであるが、因果関係論の具体的適用のあり方として参考となるところが大きいと思われ、このような議論をフォローしつつ研究を進めていくことを考えている。 また、契約解釈という見地から因果関係論を考察するという点に関して、アメリカでは約款解釈の準則とされる、合理的期待の法理等との関連も強く意識されているところがある。したがって、この約款解釈準則のあり方についても検討する必要がある。
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