因果関係につき、免責事由と担保事由の協働のケースの処理として、アメリカ判例でもっとも広く採用されているのは、近因アプローチである。これは近因である事実が免責事由か担保事由かで保険者の責任の有無を判断するものである。ただし、近因とは何かは不明確であり、因果連鎖において起点となる、後続の危険事故を生じさせた原因(起動的近因)という理解や、結果発生について支配的な原因(支配的近因)という理解などがある。また、原因が競合する場合にも、複数の原因が因果連鎖の形でつながっている場合(因果連鎖ケース)と、単独では結果を生じさせない複数の事由が協働することで結果が発生するという場合(協働ケース)があり、起動的近因という考え方は因果連鎖ケースにしか妥当しないなど適用される場面についての議論もある。このように近因とは何かについての理解は確立したものとはいえないが、近因アプローチをとることの意義として、契約当事者の合理的期待の保護に資することが強調されることが多く、近因もそのような見地から考えるべきであるといわれることがある。原因の競合の場合に、保険者の責任を認めるリベラル・アプローチも契約当事者の合理的期待の保護に資する点、また、処理が簡明で予測可能性が高まる点からある程度支持されている。ただし、リベラル・アプローチが妥当するのは、複数の原因が相互に独立している場合であるという判例も多い。もっとも、独立しているとはどういう場合かは明確ではない。このように近因アプローチについても、リベラル・アプローチについても契約当事者の合理的期待保護という見地から支持されるところがあるが、因果関係の問題において契約当事者の合理的期待保護がどのような地位を占めるか、すなわち契約解釈の問題なのかどうかも問題となる。
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