研究課題/領域番号 |
24530078
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
得津 晶 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (30376389)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 会社法 / 取締役 / 法令遵守義務 / 取締役の任務懈怠責任 / 法と経済学 / システム論 |
研究概要 |
1.システム理論・内的視点の応用可能性:法と経済学等の機能主義的立場を排斥するルーマンシステム理論やHartの法の内的視点が閉ざされた自律的システムとしての「法」的空間を基礎づけ、一つメタから見れば、社会にとって合理的であるという機能主義的見方との止揚の作業をすすめた。取締役の法令遵守義務への応用の前提として、財産法におけるもっとも基本的な構成要素の一つである所有権(法)を素材に検討し、2013年2月10日の早稲田大学での日本法社会学会準備会にてその構想を報告した。そこでは、強制取得と補償という具体的解釈論のほか、所有権がインセンティヴないし経済的合理性によって正当化される中で、法制度・ドグマーティクのシステム論的側面があることが経済的合理性の観点からも説明できることを論じた。また、経済学的正当化と法律学の一般的関係について2013年2月8日に京都大学船越資晶教授ほかと分野を超えた数時間にわたる議論を経て、本研究の問題意識を深めた。 2.内部統制システム論との接続:10月に法政大学で開催された日本私法学会に出席し、法令遵守・内部統制の典型である会計ルールについてシンポジウム討論に参加した。東京大学商法研究会においても取締役会による従業員持株会への新株発行が不公正発行規制に違反していないかという場面を検討した。また、経済学・経営学による議論も参照するため、法の経済分析WSで報告した。また、株主総会への議題提案という場面についてアメリカ法の状況を検討した原稿を公表した。また、金融機関における株式保有規制という会社法と金融法の境界領域の具体的法令違反の場面については英語論文を完成させ、現在、英文書籍に投稿中である。そのほか、2013年3月に米国にて、弁護士に法令遵守義務に対する考え方についてインタビューを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.システム理論・内的視点の応用可能性:本年度は、システム理論・法の内的視点による閉じられた法的空間という問題意識が経済的合理性によっても説明可能であるという本研究計画の核となる一般論を、取締役の法令遵守義務に応用が可能かどうかを確認するために具体的制度で検討することに成功した。その素材として選んだのが所有権であり、この成果は、2013年5月の法社会学会ミニシンポジウムでの報告が認められ、発展する予定である。その際に、さらに新たな知見を盛り込むべく、法社会学者、船越資晶教授との長時間にわたる討議も終えた。 2.内部統制システム論との接続:本年は、取締役の、企業会計ルール、株主総会での提案の仕方、新株発行の場面といった伝統的な会社法学の領域内での具体的法令遵守の場面の検討をし、会社法学における内部統制の議論から徐々に法令遵守の議論一般へ進める足がかりを確立した。他方で、米国における実務家のインタビューにも成功し、この成果から一方で抽象的でアカデミックな法令遵守の議論でありながらも、レッドフラッグ対応義務などの内部統制システムとの関連で論じられていることも確認し、両者の接続が可能であることの確認は終了した。また、銀行の株式保有規制という金融法領域の具体的法令違反について、会社法の根本的議論であるagency costの議論と深く関連していることを英語論文で示せたことから、今後、より抽象度を上げて法令違反一般の問題をagency cost等の会社法プロパートの連関を示す足がかりが確立した。 3.法令違反のデータ構築:法令違反のデータ構築についてはデータの入手および構築にやや遅れが出ている。しかし、当初より想定していたことであり、予定通り、次善案としてメディアの報道等から具体的事例の収集を進め、現在はカナダのTelus社に関する事件を法令遵守の点から分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね申請時の計画通りに研究を進める。 1. 法令遵守義務論の経済的合理性による正当化:他の社会科学からは閉じられた法的議論が、複数の規範の可能性を排除できないある種の調整問題状況において特定の規範を採用したことに当事者らにそれなりの納得をしてもらうフィクションとしての説得力付与効果があり、これによって社会全体の利益となることを正当化する理論モデルをまずは前年度素材とした所有権を対象に、5月の日本法社会学会のシンポジウムで報告を行う。そのために、Richard Rortyをはじめとする国内外の議論を渉猟する。 2. 会社法の議論への応用:この議論を法令遵守へ応用するため、内部統制の国内外の議論を渉猟するほか、法の経済分析WSへの参加を通じて経済学者とも意見交換し、その成果は東京大学商法研究会、北海道大学民事法研究会等で報告する。その際には、東京ないしアメリカの実務家へのインタビューを実施する。取締役の法令遵守義務論に特化した議論モデルの構築について、日本国内にとどまらず、各国の議論にも妥当するものであることを示すために、英文論文の執筆を継続し、その際には、Stanford Law SchoolのRonald Gilson教授との意見交換を行う。すでに実施したインタビューの成果に基づいた論文の執筆も早期に終えて、公表も行う。 3. 実際のインパクトの測定:法令遵守ないし具体的法令違反の株価ないし会社を超えた社会全体への経済的影響を測定するために、検証可能な理論モデルを構築する。そのために、計量に関する文献を渉猟するほか、法の経済分析WSに参加して経済学者、経営学者に意見を求める。とりわけ、会社単位での株価を基としたtobin Q, ROE等の指標のみならず、GDP等の社会全体の経済的傾向を示す指標を利用することを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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