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2013 年度 実施状況報告書

取締役の法令遵守義務の原理的構造―株主利益最大化原則との関係

研究課題

研究課題/領域番号 24530078
研究機関北海道大学

研究代表者

得津 晶  北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (30376389)

キーワード会社法 / 取締役の義務 / 法令遵守義務 / 善管注意義務 / 忠実義務 / 法と経済学
研究概要

本年度は、前年度の成果を踏まえ、取締役の法令遵守義務を、単に個別具体的な状況における費用便益分析の結果という正当化ではなく、費用便益分析ではどちらがいいのか結論を導けないという意味での調整問題状況において、それでも一方の結論を導き、それを当事者らに一定の納得をしてもらうフィクション(レトリック)としての機能があるというモデルの構築を目指した。その成果は、日本法社会学会における報告において、「所有権」という異なる題材を用いたものの、このようなフィクション効果によって、一定の結論を採用し、これを前提に利害関係人が行動できることで、利益となり、効率的であるということを示した。
このようにどちらが効率的かは不明であるが一定の結論を採用することで利害関係人が、それを前提に行動することを可能にすることによる利益は「コミットメント」という形で会社法理論の中に、従来から埋め込まれていたこと、そして、コミットメントとして機能することが重要である反面、そこで採用される「一定の結論」が画一的である必要はなく、複数のコミットメントの選択肢を認める方法が有用であることについて証券市場の複層化構想との関連で示した。
また、取締役の義務ないし行為規範の一つである「株主利益最大化原則」について、法令遵守の場面で相対化するための準備作業として、そもそも株主利益最大化原則の根拠である「残余権者性」の意味を確定させた。これにより、どのような場面であれば株主利益最大化原則の例外が認められるのかが明らかになり、従来の会社法理解と法令遵守義務の理解とを接続することが可能になった。
そのほか、遵法義務の対象分野として、国家による制定法だけではなく、慣習をどのように位置づけるのかという派生問題についても検討した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

計画によれば、本年度の目標は、1.法令遵守義務の正当化根拠の新たなモデルの提示と2.従来の会社法における取締役の義務・責任の議論との接続の2つである。そして、本年度の成果はおおむねこれを達成していると思われる。
まず、1.正当化根拠については、法には個別具体的に効率的な行動をとらせるように動機付けるというだけではなく、どの行動が効率的かわからないが特定の結論を採用したほうが効率的となる場面においてある結論を採用することを可能にするという点があることから、取締役にも法令遵守義務を課す根拠として、個別具体的に法令遵守をしたほうが効率的であるというのみならず、社会が特定の結論を採用したことの延長として取締役にも法令遵守義務を課すという点が正当化根拠になることを明らかにした。これにより、単に「法律は社会全体の利益に資する」といった場合に2つの意味があることを明らかにし、単純に、指標との相関関係を調べればよいわけではないことが明らかになった。
また、2.従来の会社法の議論との接続については、伝統的な株主利益最大化論の根拠となっている残余権者概念を、分析が可能になるように厳密に意味を明らかにした。その後、この残余権者モデルを用いて、本研究の目標である法令遵守義務の場面、特に利益相反規制の場面を念頭とした論稿の完成を目指したが、完成にはいたらなかった。この点を捉えて(1)でなく(2)とした。

今後の研究の推進方策

最終年度となる平成26年度は、平成24年度及び本年度の成果である、フィクション効果に着目した法の機能を取り込んだ形での取締役の法令遵守義務の議論と、残余権者概念の厳密化によって導いた会社法理論において社会全体の利益を考える議論とを統合する。
これは、日本の会社法423条・355条の解釈として展開することで、国内の学会・研究会で報告を図る。また、取締役の法令遵守義務の一般論、正当化根拠論は日本法に限られた問題ではないことから、より一般的・抽象的な議論として展開し、長期休暇を利用して米国の研究者との意見交換を図る。
他方、当初の予定では、実証データとの整合も最終年度の計画に入っていた。しかし、本年度までの成果によって、「法令遵守が社会全体の利益になる」という命題のメカニズムが、法令が個別具体的に効率的な結論を採用しているという意味と、個別具体的にどの結論が効率的かわからないが結論を特定のものに固定させることによって効率を達成させるという意味の2つがあることが判明し、このことが従来の研究にはない本研究の新規性である。そして、単純にGDP等の実証データと法令遵守との比較を図っても、2つのメカニズムの違いという点には光を当てることができない。よって、本研究の意義をより深化させるために、実証データとの整合は、優先順位を落とすことにする。

次年度の研究費の使用計画

札幌から東京等への旅費のうち、航空運賃については、早期予約による割引料金によるチケット手配に努めたため、その分の資金が浮いた。また、基礎法研究者との意見交換のための報告が招待講演となったため、その分の旅費が節約された。
最終年度においては米国に意見交換を行う予定であるが、その期間をより長期にするために活用することを考えている。とりわけ、計画では、スタンフォード・ロースクールへの出張のみを計画していたところ、他の地域のロースクールの研究者とも意見交換を考えている。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (5件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 生命保険約款上の無催告失効条項と消費者契約法10条2014

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      北大法学論集

      巻: 64巻5号 ページ: 261―291

  • [雑誌論文] 持ち合い株と資本市場の健全な発展:株式所有構造の多様化とコミットメント2014

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      月刊金融ジャーナル

      巻: 690号 ページ: 22―25

  • [雑誌論文] 会社法のインデックス化に未来はあるか?2014

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      ビジネス法務

      巻: 14巻4号 ページ: 126―131

  • [雑誌論文] 民法・商法における慣習2013

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      潮見佳男・片木晴彦【編】『民・商法の溝をよむ(新・総合特集シリーズ(別冊法学セミナー)4)』(日本評論社)

      巻: ―― ページ: 17―25、27

  • [雑誌論文] 2つの残余権概念の相克2013

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      岩原紳作・山下友信・神田秀樹【編集代表】『会社・金融・法 〔上巻〕』(商事法務)

      巻: ―― ページ: 111―134

  • [学会発表] 多元分散型統御を目指す新世代所有権法学は存在するのか?

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 学会等名
      日本法社会学会2013年度学術大会
    • 発表場所
      青山学院大学(東京都)
    • 招待講演
  • [学会発表] 定款による代理人資格制限と成年後見人・任意後見人

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 学会等名
      成年後見法研究会
    • 発表場所
      北海道大学(札幌市)
  • [備考] 北海道大学学術成果コレクション:HUSCAP

    • URL

      http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/54534/1/HLR64-5_011.pdf

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公開日: 2015-05-28  

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