研究課題/領域番号 |
24530082
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
コーエンズ 久美子 山形大学, 人文学部, 准教授 (00375312)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 証券 / 口座振替 / 信託 |
研究概要 |
わが国における証券のペーパーレス化のシステムの法的基盤である「社債、株式等の振替に関する法律(以下、「振替法」)は、基本的に従来の物としての証券に適用されてきた物権的な法律構成、有価証券法理を継承している。つまり振替法は、権利の帰属や移転等につき株式等証券の占有と振替株式等の口座記録を機能的に対応させるように規定しているととらえられる。ところがわが国の民法においては、簡易の引き渡し、占有改定、指図による占有移転といった占有形態が認められるのに対し、振替法はこれらに対応する規定を置いていないことから、たとえばシンジケート・ローンなど複数の者に対する担保権の設定や順位の設定がシステム上、煩雑であったり不可能な状況にある。 また一方で、証券がペーパーレス化されたことにより、銀行等が顧客より預かった証券につき商事留置権を主張する場面において、同様の主張が可能かが問題となっている。これは、銀行等の口座管理機関が口座記録である証券を事実上支配している、すなわち「占有」しているというとらえ方を土台にしているが、そもそも口座保有者の「占有」との関係で理論的な整理が必要な状況である。 以上の問題については、口座管理機関が口座記録としての口座保有者の証券を預かり、管理する、という口座振替システムの基本構造をふまえた考察が必要であろう。従来の「占有」という概念ではなく、それぞれの取引の実体と機能的に同一な仕組みを口座振替システムの中でどのように構築するかという視点から、本年度は、まず、商事留置権をめぐる問題につき検討した。商事留置権は、顧客が破綻した際に、破産手続や民事再生手続において主張されており、銀行等にとっては担保的な機能をもたらしていることから、口座振替システムにおける担保制度全体を考える上で重要な素材でもある。このような場面における利害関係者の法的状況について、整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画において、本年度は口座管理機関を含めた三者合意による担保権の設定について検討を進める予定であったが、商事留置権に関連する問題が口座管理機関と口座保有者との関係を分析する際の重要な素材であると考えられたため、まず、こちらを進めることとした。口座振替システムにおける担保制度の設計につき、重要な示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
口座管理機関の商事留置権、あるいはそれに類似する権利を口座振替システムの中で、どのように確保するかについてさらに検討していく。同時に、口座管理機関を含めた三者合意による担保権の設定につき、アメリカ統一商法典第八編や「間接保有証券に関するユニドロワ条約」の規定、その立法過程での議論等に関する分析を通して、立法も視野に入れた検討を行う。その検討を踏まえ、それらの担保権の優劣についても考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
検討課題である口座管理機関を含めた三者合意による担保権の設定は、わが国の振替法においては想定されていない手法であることから、分析はもっぱら比較法的な方法を用いる。関連書籍等の購入に加え、アジアの金融法研究の拠点の一つである香港大学アジア金融法研究所において聞き取り調査を行う予定である。
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