近時、投資信託受益権の販売銀行が口座管理機関である場合に、顧客につき民事再生手続が開始された際、販売銀行が顧客に対する貸付金と受益権解約支払債務の相殺を主張する事案が散見され、注目されてきた。これらの事案において、投資信託受益権が有価証券である場合には、銀行が商事留置権を主張し、実質的に優先的な弁済を受けうるところ、投資信託受益権が電子化されたことから現行法上、商事留置権の成立については明確な判断が困難なため、銀行によりその換価金と貸付金との相殺が主張されたものである。 この商事留置権の問題によって、口座管理機関が振替証券に対して固有の権利を主張する場面があり、さらに口座管理機関の法的地位について改めて検討することの必要性が認識された。振替制度の構築に際しては、従来の物権法理、有価証券法理を可能な限り継承するために、証券の占有と口座記録を観念的に等値する発想が基礎となっていたことが指摘できる。つまり、口座管理機関が管理する口座名義人の口座に記録される振替証券は、口座名義人が証券を占有するのと同様の法律効果、すなわち口座名義人に振替証券の権利が帰属すると解される。しかしこれを前提とすると、商事留置権が成立する要件である口座管理機関による振替証券の占有を、整合的に説明をするのが困難であると思われる。 本年度は上記の問題意識から、振替制度における口座管理機関の法的地位を再検討し、口座名義人の証券に対する権利は振替制度の仕組みに照らし、口座管理機関との関係、合意に基づき理解されるべきことを主張した。そしてそれを踏まえて、担保権者、担保権設定者(口座名義人)に口座管理機関を含めた三者の合意に基づく担保権の設定(「支配契約」による担保権の設定)についてアメリカ統一商法典、ユニドロア条約を素材に検討し、この制度の振替法への導入について考察した。
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