研究実績の概要 |
最終年度は、過去2年間に亘る日米における法学と経済学の研究の結果を集約し分析し新たなモデルを構築することに注力した。 アメリカのコーポレート・ガバナンスにおいては契約理論が主流といえる。その1つの帰結である株主価値最大化論、モニタリング・ボードに対するCEO優位の現実、更にこれらからもたらされる短期的利益の追求による弊害(エンロン事件やリーマン事件等)、以上が複雑に交錯している。他方で、取締役が会社(株主)に対し信認義務を負うことを前提に、理論上取締役は公共の利益のため会社利益を犠牲にする裁量権をも有すると考えられる。アメリカの判例法も経営判断原則に基づきこれを認めてきた。ところでイギリス2006年会社法が採用した啓発的株主価値(Enlightened Shareholder Value)モデルは、取締役に、会社目的として長期的株主価値とステークホルダー利益を考慮すべきことを求めるに至った。そしてこの考慮義務はその履行状況に関する情報の開示義務によって担保されている。こうした啓発的株主価値モデルは、アメリカや日本のコーポレート・ガバナンスでも大いに考慮に値する。つまり「長期的」株主利益の最大化を基本に置きつつステークホルダー利益(公共の利益を含む)を考慮し、取締役会のモニタリング機能を重視しつつ情報開示(財務・非財務情報を含む)による証券市場の監視とゲートキーパー(監査法人や格付機関等)による監視とを付加することで、多重的なガバナンスが実現される。換言すれば効率性と公正性とを備えたガバナンスが可能となる。 なお “Reforms of Corporate Governance: Competing Models and Emerging Trends in the United Kingdom and the European Union”の題で論文(約12,500単語)をまとめ、アメリカのローレビューへ投稿した(掲載されない場合はウエッブ掲載等別途の方法での公表を検討する)。
|