研究課題/領域番号 |
24530084
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 友敬 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80209064)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 会社法 / 証券法 / 実証研究 / 計量経済学 / 統計学 |
研究概要 |
初年度は,現実の裁判例が存在する株式買取請求事件をとりあげ,①企業価値毀損の認定に当たってイベントスタディの手法を応用する可能性,②いわゆる「ナカリセバ価格」の決定に際して,マーケット・モデル等の回帰分析の手法を用いて特定の日時の株式価値を推計する可能性について具体的な検討を行った.検討の手順としては,(a)従来,企業価値毀損の認定及び「ナカリセバ価格」の決定について,裁判所がどのように行ってきたか検証し,(b)これに対して,仮に計量経済学的手法・統計的手法を利用してこれらの作業を行ったとすれば,いかなる範囲で,またどのような意味において改善が図りうるかを検討した.(a)については,従来の裁判例における市場株価の参照の仕方が,科学的な推論とはほど遠く,統計学的・ファイナンス理論的に見て,ほとんど誤りに近いものであることを確認した. 次に,最判平成24年2月29日民集66巻3号1784頁,最判平成23年4月26日判時2120号126頁(及びそれらの第1審,控訴審)を素材に,データの解釈や計量経済学的手法・統計的手法の適用上の問題を検討した.具体的には,各事件におけるイベントの設定(組織再編計画の公表日か,具体的な再編条件の開示日か等),推計式の算出過程(推計ウインドウをどのように設定するか),イベント前後における株式リターンの変化をもって,「企業価値の毀損」と理解してよいか(その前提として毀損の有無の基準となる企業価値をどの時点の株価とするか)といった問題を考察した.その結果,これらの手法を使うことで,市場株価の変動に関する計測の精度が上がることは確かであるが,結果の解釈においていくつかの難題が残ることが分かった(なお前者事件の代理人からは,裁判所に提出された鑑定意見書を入手し,データを検証した).これらの成果については既に一部公表済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,会社法・証券法の分野において,すでに一部の裁判において試みられている,計量経済学的手法あるいは統計的手法の利用に関して,その可能性を探求し,①このような手法を用いることの具体的なメリットは何か,②このような手法が用いられることが望ましいのはどのような曲面か,③具体的にどのような形で利用可能なのか(標準的手法があるのかという点を含め),④利用する上で特に留意しなくてはならない点(技法上あるいは法学的な見地から)は何か,といった諸点を明らかにし,今後の裁判の質の向上に資することにある. 研究初年度は,株式買取請求事件という具体的素材から検討を始めた.その結果,「研究実績の概要」で述べた通り,株式買取請求事件における重要な争点の一つである「企業価値の毀損の有無」に限定してではあるが,①~④についての一定の結論を得て,それを公表することができた.また実務家(裁判官・弁護士)へのインタビューを通じて,実務における,統計学的・計量経済学的な手法がどのように認識されているかについて知ることができたことも,(これ自体が直ちに業績になるわけではないにせよ)大いに勉強になった.このように,これまでのところは順調な進捗状況と言える. もっとも,その結果,そもそも法が市場価格を参照するというのが,理論的にいかなる論拠に支えられているかについて検討しなくてはならないということが分かり,さらに難問が一つ増えた感がする.本年度からは,対象分野を広げると同時に,統計学・計量経済学の内在的な方法論の進化・検討を図りたい.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の結果を踏まえ,いくつかの方向で研究を拡張することとしたい.まず第1に,株式買取請求事件について,当初取り上げた事件以外にもサンプルを増やし,また実際にデータを操作することで自ら計量経済学的手法・統計的手法を試みることで,これらの手法を現実に適用する上での問題点・留意点についてより精密に検討し,研究を深化させる.たとえばいわゆる「ナカリセバ価格」の決定に際して,マーケット・モデル等の回帰分析の手法を用いて特定の日時の株式価値を推計する作業についても,異なる推計手法(マーケット・モデルに加え,たとえば3ファクター・モデルその他の代替的な手法)を試すと同時に,リーマンショックのような大きな経済変動を挟む場合に,変動前のデータにより組成された推計式が,変動後の株価推計に有用なのかといった点も検証する. 第2に,株式買取請求以外の例として,虚偽の情報開示が行われた市場で取引を行った投資家の損害賠償について検討する.具体的な裁判例(たとえば最判平成23年9月13日(判例集未登載))をもとに,仮に計量経済学的手法・統計的手法を用い損害額を推計すればどのような額になるか,それと現実に裁判所が認定した額がどのぐらい差があるか,その差をどのように理解すべきかと行ったことを検討することになる.この類型の事件においては,金融商品取引法21条の2第2項において損害賠償額の推定規定が置かれているために,計量経済学的手法・統計的手法を用いた推計と,この推定規定を適用した結果がどの程度のズレをもたらすかも重要な検討課題となろう.この領域においては,アメリカにおいて相当量の研究の蓄積が存在するため,できる限り,それらをも参照する.
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進方策を実施するために,下記の通り研究費を使用する. (1)計量経済学・統計学関連図書・資料及び会社法・証券法分野の図書(和書・洋書)の購入,(2)統計関連PCソフトの購入,プリンタ・トナー,文具等の消耗品の購入,(3)データの収集,入力,出力のためのアルバイト謝金の支払い,(4)資料収集・研究成果発表のための学会(日本私法学会,日本経済学会等)参加費用の支出.
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