研究概要 |
平成24年度の結果を踏まえ研究領域を拡張した.第1に,株式買取請求事件以外に,いわゆるMBOにかかる案件についても検討を試みた. いずれの場合も,組織再編計画・MBO計画のアナウンスが投資家にいかなる情報を与えていると考えられるのか不明確な点があるために,その後の具体的な条件の公表の効果についても不明確な点が残ることが分かった. 第2に,虚偽の情報開示が行われた市場で取引を行った投資家の損害賠償についての検討にも着手した.有名なオリンパス事件をめぐって投資家が訴えを提起しているため,この事件を素材に,アメリカにおける先行研究(たとえば,Patrick A. Gaughan, Measuring Business Interruption Losses and Other Commercial Damages, Second Edition, John Wiley & Sons, Inc., 2009, Ch.10等)を参照し検討した.その結果,計量経済学的手法・統計的手法を用いた推計額と金融商品取引法21条の2第2項の推定規定を適用した額とに相当ずれが生じることが分かった(ただしこの事件においては金融商品取引法21条の2第2項の適用自体が,かなり面倒な解釈を含んでいる).なおこの事件ついて意見書を執筆した関係で,事件係争中は研究成果の公表に若干の制約がある. 最後に,「会社法制の見直し」にかかる会社法案の可決が見込まれることとなったため,当初の研究計画には組み込まれていなかったが,コーポレート・ガバナンスの企業価値に与える影響・法制度(ソフトローを含む)の役割に関する実証研究を行った.裁判過程における統計的手法の利用そのものの話ではないがそれと密接に関係する問題である.研究成果は,日本私法学会シンポジウムにおける研究報告としてすでに公表されている.
|