研究課題/領域番号 |
24530086
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小林 道生 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60334950)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 保険募集 / 情報提供義務 / 助言義務 / 保険料 |
研究概要 |
平成24年度の研究実績として、「保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに生命保険契約が失効する旨を定める約款の条項の、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』該当性」判例時報2169号(判例評論648号)153~159頁(2013)を公表することができた。これは、最高裁平成24年3月16日民集66巻5号2216頁(以下、「本判決」という)について検討したものである。 生命保険契約では、継続保険料(第2回目以降の保険料)の不払いの効果に関し、民法の債務不履行・解除に関する規定(民法541条)ではなく、無催告失効条項によることとしているが、本判決の原審である東京高判平成21年9月30日金判1327号10頁は消費者契約法10条によりそれを無効と判断したため、理論面のみならず、実務上も大きな関心をよび、最高裁判所での帰趨が注目されていた。無催告失効条項をめぐっては複数の論点があるが、検討にあたっては、本判決の判断に即して、主として無催告失効条項の消費者契約法10条該当性という問題を扱った。 そこでは、とくに、保険料の払込みがなされない場合に実務上取られる約款外の措置(保険者は払込督促のはがきを保険契約者宛てに郵送し、保険料の払込みを再度依頼のうえ、払込みのないまま払込猶予期間を過ぎると保険契約が失効する旨の注意喚起を行っている)をどのように評価するかが重要な位置を占めたが、これは、本研究課題との関連からすると、保険約款の不当条項規制と情報提供規制(保険契約の失効については、さらに、金融庁の定める監督指針上の「注意喚起情報」として保険募集時に情報提供すべき事項とされている)の交錯関係をどのように理解すべきかという新たな課題を生じさせるものとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度においては、年度内に本研究課題にとっても重要な意義を有する最高裁判例についての検討結果(上記の「研究実績の概要」欄を参照)を公表することができたこと以外に、さらにもうひとつ、保険募集における情報提供義務に関して、最近の生命保険分野の裁判例を素材にした論考の執筆を進めることができた。この研究は、平成25年度中にも「生命保険分野における募集の際の情報提供義務」として、研究代表者の所属研究機関である静岡大学人文社会科学部法学科の紀要(「法政研究」)に公表することを予定している。 このような状況を踏まえるならば、現在までの研究の進捗状況(「達成度」)は、おおむね順調に推移していると評価することができると考えられたため。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に行った研究の継続、展開という観点からは、まず、生命保険契約における継続保険料の不払いに関して、立法論的および比較法的考察を行うこととする。立法論的考察については、平成20年に制定された保険法の立法時における法制審議会保険法部会の討議内容をあらためて見直す必要がある。また、比較法的考察としては、わが国とは対照的に継続保険料の不払いに関して規定を設けているドイツの保険契約法を取り上げることにしたい。本研究課題との関連を意識する場合、ドイツ法にあっては、保険料未払いの保険契約者に対して保険者が改めて期間をもうけて催告する際に継続保険料不払いの効果に関して正確に情報提供することが義務付けられており、保険契約存続時における保険者の情報提供義務のあり様を考えるうえで示唆を得たいと考えている。 また、平成24年度には、最近の生命保険分野の裁判例を素材にして保険募集における情報提供義務を検討することができた。平成25年度は、さらに、金融庁に設置された金融審議会の作業部会における議論の内容、その後の裁判例等を考察対象に加えたうえで、年度内にも「生命保険分野における募集の際の情報提供義務」として、研究代表者の所属研究機関である静岡大学の紀要(「法政研究」)に公表することにしたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
まず、当該研究費が生じた理由として、平成24年度においては、物品の費目区分について当初の予想よりも保険法関連の図書(外国法文献を含む)の購入費がかからなかったこと、また、旅費についても、とくに海外旅費に関し、ドイツへの出張を控えたことに起因している。 また、平成25年度に請求する研究費と合わせた使用計画については、保険法関連図書のみならず、昨年度以上に、わが国の民法(債権法)改正論議との関連において図書を多く購入する予定である(金額ベース)ほか、旅費についてはドイツへの出張を考えている。
|