本研究は、自賠責保険、任意自動車保険および人身傷害補償保険という自動車事故によって生じた人身損害をカバーする保険において、裁判外では、民事裁判において一般に採用されているのとは異なる損害額算定基準を用いて損害額を算定し、保険金支払を行うという扱いがなされていること(損害額算定基準の二元性)に関して、そのような制度設計の合理性を検証するとともに、これら各種自動車保険における損害額算定のあるべき姿について検討しようとするものである。平成26年度は、損害額の算定をめぐる自賠社、任意社、人傷社、被害者の利害状況とそれに基づく各プレーヤーの行動原理について整理した上で、そこから得られた知見を応用する形で、損害算定基準の二元性に関する諸問題のうち、学説上激しく争われており、最高裁の判断もいまだなされていない問題、すなわち、「人身傷害補償保険約款中の支払保険金の計算方法を定める条項において、同約款所定の算定方法により算定された被保険者の損害額から、自賠責保険等によってすでに給付が決定しまたは支払われた金額、対人賠償保険等によって賠償義務者が損害賠償責任を負担することによって被る損害に対してすでに給付が決定しまたは支払われた保険金もしくは共済金の金額、賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額を差し引く旨を定めている場合、支払保険金の計算はこの定めを文字通りに適用してなされるべきか、それとも、上記の定めを限定解釈し、控除することができる金額は裁判により被保険者の損害額として算定された額(裁判基準損害額)を確保するという「保険金請求権者の権利を害さない範囲」のものと解すべきか」という問題について掘り下げた研究を行った。その研究成果は平成27年度中に論文として公表することを期している。
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