研究課題/領域番号 |
24530092
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石田 剛 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (00287913)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 債権譲渡 / 動産担保 / 不動産担保 / 抵当権 / 譲渡担保 |
研究概要 |
平成24年度は、動産担保法・債権譲渡法に関する立法論的検討の素材となる比較法研究を予定していた。実際は、そのうち特に債権譲渡担保の研究にウエイトを置き、ドイツにおける将来債権譲渡と譲渡禁止特約の競合事例に関する最新の議論状況を比較法的に考察した。また民法466条2項に関する日本法の裁判例の検討として、最判昭和48・7・19民集27巻7号823頁以降、判例準則として確立している「重過失」要件の認定判断に関わる下級審裁判例を網羅的に検討し、「重過失」要件の意義と判断構造を分析した。以上の検討を踏まえて、平成25年2月末に公表されたばかりの民法(債権法)改正作業の「中間試案」の内容について詳細に検討を加え、立法論的な提言を行った。 またこれと並行して、動産担保法に関しては、ドイツ法における動産譲渡担保法の基礎理論研究に必要な文献を幅広く渉猟し、動産非占有担保法(動産譲渡担保法)の立法化に向けた検討の基礎作業に着手している。 さらに物権変動論の領域では、取得時効と登記の論点に関する重要判例が相次で出された。具体的には、最判平成23・1・21判時2105号9頁及び最判平成24・3・16民集66巻5号2327頁を機縁として、抵当権と所有権、抵当権の用益権との競合事例における対抗法理の在り方を探求した。その成果はさしあたり判例研究という形で公表済みである。 以上のように、当初の予定を若干見直し、現在進行形で立法作業が着実に進められている債権譲渡法の領域で目に見える成果を残す方向で研究を進めた。不動産担保法の領域でも、抵当権に関する重要判例がいくつも出されていることから、急遽不動産担保法の研究にも想定以上の時間を割く結果となった。その分、動産担保法に関する研究は若干手薄とならざるをえず、資料情報収集に努めるのが精一杯という状況であり、本格的な分析と検討は次年度以降の課題とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】で述べたとおり、平成24年度は、民法(債権法)改正作業に関する立法論的検討に多くの時間を費した結果、動産譲渡法と債権譲渡法の両方の分野において均等な実績を残すことはできていない。しかし債権譲渡法の領域においては、非常に充実した研究業績を残すことができた。すなわち今回の債権法改正の重要テーマの一つである、債権譲渡禁止特約の効力に関しては、学内紀要『阪大法学』に2本の本格的論文を執筆し、さらに年度末にはそれらの研究を総合する形で単著の研究論文集「債権譲渡禁止特約の研究」を上梓した。同研究は法制審議会におけるこれまでの議論を事細かに追跡したうえで中間試案の成果を基本的方向としては支持しながら、さらに改善するための提案を行うものであり、立法論的検討にいくらかの寄与をなしうるものと考える。 また中間試案の公表に合わせて、本務校である大阪大学で改正作業の中心メンバーである内田貴法務省参与を招き、「債権法改正と民法(債権法)の学習ー中間試案の概要ー」学生及び研究者・実務家を聴衆とする大規模な解説会を開催した。その成果は講演録として、阪大法学に掲載される予定である。 さらに不動産物権法の領域においては、司法研修所の裁判教官研修において、講演「物権法の基本問題ー背信的悪意者排除論を中心にー」を行い、同講演録は司法研修所論集122号に掲載された。なお同論集は2013年5月に法曹会より出版されることになった。そこでは担保法にかかわる問題についても検討を加えている。 このように、論文や著書の形で研究成果を結実させた領域については偏差があるものの、これは緊急に対応すべき課題の優先順位を高めて研究を行った自覚的な進路変更の結果であり、総合的にみると、研究計画はおおむね順調に進展しているといってよい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、動産譲渡担保法の立法論的検討のための基礎作業として、夏季休暇を利用してドイツ法系諸国における動産担保法の現状と課題を分析する予定である。前年度実施することのできなかったドイツ系諸国を訪問し、文献収集はもちろん、現地調査・資料情報収集を行う。特にドイツ特有の担保効力規制する法理である「過剰担保」理論の意義と問題点について考察を深める予定である。 あわせて不動産担保物権法の領域においても研究を進めるため、付従性のない担保物権に関する西欧法の動向をドイツ法を入口としながら、最終的には「付従性のない担保物権」に関するEU法の現状を把握し、また日本法において判例法の発展により注目すべき動きがある抵当権法の課題を整理することで、最終年度(平成26年度)には、動産担保法、不動産担保法双方の領域で、平成24年度の債権譲渡法に関して残した成果に比肩しうる成果を残したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、前年度に海外出張をする機会がなかった分を補足するために、外国における資料・情報収集のための渡航滞在費用等が多くかかる。また国内における研究会や学界での発表・質疑等で国内出張の機会も増えることが予想される。そのため総じて支出において旅費が占める割合が高くなることは避けられない。しかしこれは前年度支出を予定していた旅費相当額(40万円から50万円)がそのまま次年度に繰り越された格好となるので、費用支出はほぼ想定どおりに推移しているといってよい。また携帯用の端末を購入する必要もあり、若干の設備備品、洋書・和書の購入。資料収集や原稿校正作業等に用いるアルバイトの費用は昨年度とほぼ同じ水準に留まるものと予想される。その結果、今年度は3年間の研究計画の中で、主要費目において、比較的多額の出費が必要になるものと予想される。
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