本研究の当初目標として設定した以下の4つの項目につき,以下のような知見・成果を得て,著書・論文・講演等で公表した。 (1)電子申請の利用率の向上――この問題に関しては,電子化されていない種々の添付情報に関する一括的な実質的審査を司法書士・土地家屋調査士等の専門資格者に委ねたうえ,彼らが審査した後作成する電子データを添付情報として送信する方法が有効と解される。 (2)登記の真実性の向上――平成22年12月16日,最高裁は,中間省略登記の申請を却下する判決を下した。同判決に対しては,その適用範囲を限定的に解釈する向きもあるが,諸外国における不動産業者の社会的ステータスが非常に高い理由が,虚偽登記や租税回避を断じて行わないことに対する国民の評価と信頼に基づくものであることを,不動産業界は認識すべきである。 (3)筆界特定・土地家屋調査士会ADR――両者の利用率の伸び悩みの根本的な原因は「筆界」と「所有権界」の峻別論にある。筆界特定に関して,立法当初に考えられた土地家屋調査士を取り込んだ「委員会」方式に改め,筆界・所有権界の両者を一括処理できる制度に改めるべきである。 (4)物権変動の実体法と手続法の整合性――民法(物権変動関係)改正をも視野に入れた検討については,単著『基本講義・物権法Ⅱ担保物権』(新世社,平成26年6月)のほか,「司法書士の現状と今後のあり方」市民と法85号(平成26年1月),「借地借家法18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可)」『(新基本法コンメンタール)借地借家法』(日本評論社,平成26年5月),「(判例評釈)民法177条の物権変動の範囲――一般論」『民法判例百選I総則・物権(第7版)』(平成27年1月),「(判例評釈)権利能力なき社団の財産の帰属と登記名義」判例セレクト2014〔I〕(平成27年1月)(いずれも単著)等において個別具体的な検討を行った。
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