本年度は、包括担保化時代における担保権と事業再生との調和に関する手続的研究として、次の研究を行った。 1)「倒産法における債権者の一般の利益」について手続横断的に研究し、その成果を論文として公表した。債権者の一般の利益とは、昨年度まで、研究してきた「清算価値保障原則」と密接に関係する概念である。これまで両者はほぼ同じ概念と理解される傾向にあったが、手続横断的な網羅的な検討の結果、債権者の一般の利益には、多義的な要素が含まれていることを示した。この研究は、すでに昨年度の研究成果である「清算価値保障原則の再構成」論文において、再生手続における不認可事由としての清算価値保障原則について、再生手続と和議との相違点に着目して研究することによって、清算価値をどのように算定すべきであるか、清算価値保障原則をどのような基準として利用すべきであるかという問題に関する研究と関係する研究である。
2)イギリスの動産債権担保法を中心に研究してた。その成果を論文として公表した。イギリス担保法制を研究するにあたっては、これまでABL法制研究会に継続的に参加したことが役立っている。この研究会では、各国における包括担保(ABL)の法制度について、比較法的な研究・議論がされてきた。この研究会で示された枠組み(マトリクス)を踏まえて、イギリスの動産債権担保法制を概観することによって、包括担保を採用する社会において、どのような仕組みが用意され、どのような議論があるか、を立体的に把握することができた。イギリスにおけるフローティングチャージとフィックスドチャージという2種類の担保制度の相違点、さらに、それらとは異なる債権譲渡担保取引の特徴と限界などを示して、近時のイギリスにおける動産・債権の担保取引の類型と特徴を示した。
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