研究概要 |
2013年度の科研費助成事業による研究成果は、以下のものである。二つの部分に分かれる。 1 「国際裁判管轄の専属的合意と国際的訴訟競合の関係」慶應法学28号273頁~299頁(2014年)。この論文は、特定の国に国際裁判管轄の専属的合意をなしたにもかかわらず、それを無視して別の国に訴えを提起した場合に、国際的訴訟競合との関係で、どのような影響を受けるのかを論じたものである。この点に関して、EUでは、ヨーロッパ裁判所判決は、一方当事者が合意を無視して別の国の裁判所に訴えを提起した後に、相手方当事者が合意された裁判所に訴えを提起した場合に、前訴優先ルールが妥当すると判決を下した。すなわち、合意を無視して提起された国の手続が優先するとした。しかし、この判決に対しては、とくに国際取引紛争において多用される専属的合意管轄の重要性を低下させるものとして批判を受けた。2015年1月施行予定の改正ブリュッセル規則では、このヨーロッパ裁判所判決を否定する立法がなされた。また、ハーグ管轄合意条約においても、専属的合意管轄がある場合に、その合意を無視して他の国で最初に訴えが提起されたことを以て、合意された国の裁判所が管轄を控えることはできないとしている。わが国では、国際的訴訟競合は、いわゆる「特段の事情」(民訴法3条の9では「特別の事情」)の一要素として考慮するのが、判例の立場であるが、仮にその立場を前提とする場合であっても、専属的合意の効力を優先させるべきである旨を本論文では主張した。 2 Espluges/Barona(Ed.), Global Perspectives on ADR, 2013, pp 253-285. この論文は、訴訟と双璧をなす紛争解決手段の大きな柱であるADR制度について、日本の現在の法状況および制度成立に関する歴史的経緯を概説したものである。
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