研究課題/領域番号 |
24530104
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
内田 勝一 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (10063794)
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キーワード | 取引交渉能力 / 民間賃貸住宅市場 / 不動産賃貸借法制 |
研究概要 |
本研究は契約交渉力格差論と賃貸住宅市場の変貌という相対的に独立した課題を連結することにより、不動産賃貸借法制の規制について新たな方向を探求することを目的としている。 契約交渉力格差論については、日本の民法学・消費者契約法学における近時の理論的動向を検討した。具体的には、最高裁のいわゆる学納金返還訴訟判決における「消費者と事業者との間には、その有する情報の質及び量並びに交渉力の格差が構造的に存在する」旨の指摘は消費者契約法の立法過程における議論からどのように変化したのか。またドイツ連邦憲法裁判所が定立した「構造的な交渉力の不平等」が存在する場合、立法及び裁判所を通じて、その是正を図るべきという基本権解釈の指針は、日本法における近時の理論研究にどのような影響を与えたのかを検討した。昨年度に引き続き、アメリカ契約法における取引交渉能力論の理論的な発展状況を検討し、ヨーロッパ契約法における交渉力格差論の検討にも着手した。 最近の日本では、地方における雇用状況の悪化により首都圏へ若手労働者が集中し、しかもそれらの多くは非正規雇用者であって、建物賃貸借契約の初期費用である敷金、権利金を支払う能力が不足し、賃料支払い能力も低いため、これまでとは異なる民間借家市場が生まれつつある。本年度は、これにより引き起こされている賃貸住宅市場の変貌について、調査・検討を始めた。ただし、当初予定していたイギリスにおける賃貸住宅市場変貌の現地調査、研究者との理論的な研究交流の時間を見いだすことができなかった。海外調査研究は次年度以降の研究課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、契約交渉力格差論について、日本法における理論の展開状況、比較法的考察を進めることができた。また、日本の民間賃貸住宅市場の変化に関する調査研究により、現状の理解、課題の発見、今後の方向性などについて考察を進めることができた。ただし、本学の国際化担当副総長・常任理事としての校務多忙の結果、これらの研究成果を発表する機会がなかったのは残念である。 前年度(平成24年度)進めた借地借家法の判例分析を前提として、本年度は借地借家法の教科書の原稿執筆を進めたが、執筆時間の不足から完成するにはいたらなかった。 研究成果の執筆、公表は遅れ気味であるが、研究それ自体は順調に進んでおり、当初の目標をほぼ達成している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、一方では、民法学にとって喫緊の課題である契約における情報量格差、交渉力格差論の研究を進め、他方では、都市住宅政策研究という観点から、民間賃貸住宅市場の変貌を調査研究するというものであり、二つの課題を並行して進めることが必要である。しかもこのような学際的研究を、日本だけでなく、アメリカ、イギリス、及びヨーロッパにおける状況との比較によって進めるものである。それ故、研究課題と検討対象国・地域とをバランスをとりながら組み合わせ、計画的に遂行することを心がけてきた。今後もその時々の状況に適合するよう、その方向で研究を進める予定である。 と同時に、これらの相対的に独立した研究課題を連結し、総合化し、新たな方向性を検討するために思索を深めることも必要になってきた。それ故、平成26年度以降はこの方向での研究にも重点を置いていくことにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
民間賃貸住宅市場の調査には文献学的な検討もあるが、多くは現実の実態調査が必要であり、不動産業者、土地住宅問題の政策当局へのヒアリング、関係研究者との研究交流が中心となる。この部分については日本及び海外における現地調査が不可欠であり、研究費及び調査時間の集中的な投下が必要である。 他方、民法学の理論的な課題については文献調査とそれに基づく思索の深化が必要である。 これまでほぼ8年間にわたり、本学の国際化担当副総長・常任理事としての校務が多忙であったため、現地調査の時間が不足し、その結果研究費の使用を次年度に繰り越すことが必要となった。 今年度以降は、賃貸住宅市場の変貌に関する現地調査を進めるとともに、民法学の理論的な調査研究とそれに基づき、賃貸借法規制の新たな方向を考察、思索することが必要になっている。 本学の副総長、常任理事としての任期が平成26年度途中で終了する予定であるので、今後は夏期等の休暇期間のみならず、学期中にもより多くの時間と費用とを研究に割くことが可能となっている。 したがって、賃貸住宅市場の変貌については日本のみならず海外地域の現地調査を積極的におこなう予定である。
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