研究課題/領域番号 |
24530104
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
内田 勝一 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (10063794)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 交渉力格差 / 情報量格差 / 情報の非対称性 / 民間賃貸住宅市場 / 空き家戸数・空き家率 / 不動産賃貸借法制 |
研究実績の概要 |
本年度は賃貸住宅市場の変貌の研究に重点を置いた。日本の人口は2008年をピークとして減少しはじめ、年間出生者数は100万人程度にとどまり、人口減少社会となった。65歳以上の高齢者が人口の25%を占め、人口構成も変化しつつある。また平成25年度の住宅・土地統計調査によると、全国の住宅数は6063万戸で、空き家数は820万戸となり、空き家率は13、6%に達した。 賃貸住宅市場においても空き家戸数と空き家率は継続的に上昇しており、賃貸用共同住宅の空き家率が25%に達している地方もある。公共事業の削減、製造業等の海外移転等により雇用の場を喪失した労働者は、大都市へ移住し、地方での賃貸住宅需要は縮小している。東京等の大都市においてこのような若年労働者を受け入れるのは低賃金サービス業であり、低家賃で現代的な設備へと更新された住宅以外の共同賃貸住宅では空き家率が上昇している。高度成長期に都市に流入した人々は、郊外に小規模住宅を取得したが、人口減少、高齢化の進行、経済力の低下等により、まだら的に空き家が増加し、地域の荒廃が進んでいる。 本年度は、このような、地方における雇用と人口の喪失、空き家戸数の増加による大都市近郊地域の住宅市場の崩壊、都心地域における若年労働者の雇用状況の変化、住宅市場の変化、グローバル化と人口の高齢化に伴う労働市場の変化、居住者の高齢化による住宅の老朽化・放置・荒廃の進行等、これまでの想定とは異なる住宅市場が生まれつつあることについての調査検討を行った。このような状況変化のなかで、法律学はどのような対策をとることができるか、という実践的な観点から研究を進めた。 他方、交渉力格差論に関しては、経済学における「情報の非対称性」理論についての検討を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は日本の民間賃貸住宅市場の変化を研究し、現状理解と課題発見に努め、今後の研究の方向性を考察した。しかし、より思索を深め、洗練された論理化を行う点では十分でない点があった。 契約交渉力格差論に関しては、昨年度に引き続きアメリカ契約法における取引交渉能力論の理論研究を進め、ヨーロッパ契約法における交渉力格差論の検討をも始めたが、十分にまとめる段階には達していない。 本研究と関連させて、借地借家法の教科書の作成を進めてきた.2015年秋には出版される予定である。 研究自体は順調に進んでいるが、研究成果の執筆公表が若干遅れているところである。
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今後の研究の推進方策 |
契約における情報量格差、交渉力格差論の研究を進める。その際、日本、アメリカ、イギリス、ヨーロッパにおける状況との比較法的研究を進めるとともに、経済学において議論されている「情報の非対称性」に関する理論研究を行い、法律学の分野における基礎理論として発展させることを目標とする。 同時に、人口減少、人口構造変化という環境のもとでの民間賃貸住宅市場の変化の過程を調査研究する。その際には、アメリカ中西部、旧東ドイツ等、人口・産業・雇用が縮小し、都市の衰退が見られる地域との比較に重点を置く。 これら課題についての比較法的、学際的研究を進めるとともに、その連結をはかり、総合化し、新たな方向性を探り、最終的なまとめ、結論を導くことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
民間賃貸住宅市場の調査に関しては、不動産業者等への実地調査を予定していたが、2014年11月まで、本学の国際担当常任理事としての海外出張がきわめて多かったため、現地調査を行うことができず、研究費の使用につき残額を次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に引き続き、民間賃貸住宅市場の変化についての調査を継続する。実態調査が必要であり、国内外における実地調査を予定している。 また、交渉力格差論に関しては、民法学の理論的な課題の研究にとどまらず、経済学における「情報の非対称性」に関する議論を研究し、住宅市場の特質と関連させて、論じる予定である。これらに関する文献調査に研究費を支出する予定である。 さらに、本年度が研究の最終年度であるので、これまでの研究をまとめ、研究成果の公表を予定している。
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