研究課題/領域番号 |
24530104
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
内田 勝一 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (10063794)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 民間賃貸住宅市場 / 非対称情報の経済学 / 交渉力格差論 / 社会的連帯 / 社会的排除と包摂 |
研究実績の概要 |
本研究は「賃貸住宅市場の変貌」と「契約交渉力格差」という二つの概念で分析をすすめてきた。前者については、前年度に引き続き、住宅市場の変化の状況を分析検討した。前年度は空き家の増加に焦点を当てたが、本年度は、賃貸住宅市場の変化の状況を分析した。とりわけ、低所得若年労働者の居住不安定化、高齢単身世帯の増加にもかかわらず供給が不足している状況を分析検討した。 契約法における契約交渉力格差論を非対称情報の経済学の観点から検討した。賃貸住宅市場においては、賃貸住宅に関する情報は住宅所有者が保有しており、当事者双方の情報量が平等ではないこと。不動産は立地、規模、質等において多様であり、しかも耐久性に富んでいるという特性を有し、商品の同質性に乏しいこと。適当な住宅を見いだすための調査費用等の取引費用がかかること。これらからして、伝統的な経済学の前提条件に欠けるところがあるので、民間賃貸住宅市場への政府の介入が必要なことを論じた。 効率的な資源分配のみならず、公平な所得分配を実現するための公的介入の正当化の論理を近時の政治哲学上の議論に基づいて考察した。ロールズの提唱する格差原理による正当化のみならず、社会連帯の視点、コミュニティーにおける相互扶助に関する議論、社会的排除と包摂に関する議論などを分析した。とくにコミュニティー論、共同体論については、近時のアメリカにおける議論をヨーロッパや日本における議論と対比しながら検討を加えた。 本年度は民間賃貸住宅市場への公的介入の正当化の論理を下にして、賃貸住宅市場の変貌と交渉力格差論とを結びつける議論を展開することにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度で研究は終了する予定であったが、研究成果のまとめが遅れてしまった。その理由は、所属大学の学長代理(国際関係)に任命され、本学総長に代わっての海外出張が多く、またAsia Pacific Association for International Educationのプレジデントとして高等教育の国際化に関する国際会議の主催、基調報告等が多く、本研究に割く時間が減少してしまったことにある。 とはいえ、研究実績の概要に示したとおり、本年度は非対称情報の経済学、政府の民間賃貸住宅市場への介入の論理に関する政治哲学・法哲学についての研究を進めた。これらをとりまとめ、研究論文として公表することを予定していたが、これが遅れてしまった。 なお、民間賃貸住宅市場の変貌とそこにおける契約当事者の交渉力格差という本研究で示した視点から借地借家法の教科書を執筆した。これは本研究の付随的な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究についての補助事業期間延長が承認されたので、次年度においては、民間賃貸住宅市場の変貌の状況をふまえ、またその市場における交渉力、情報量の格差を念頭に置いて、公的な介入の必要性と正当性の論理を展開することを予定している。 その際、民間賃貸住宅市場に関する住宅政策、建築学、都市計画、社会学などの知見を深めたい。また、非対称情報の経済学についての研究を進め、効率的な賃貸住宅市場を構築するために必要な仕組みの検討を行う。さらに、公的介入の正当性を基礎づけるための政治哲学の研究をも深めたい。 これらを統合した成果を適切な媒体において発表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
民間住宅市場の変貌、とりわけ都市の衰退、雇用の喪失、産業の流失との関係性について海外調査をおこなう予定であったが、本学学長代理(国際関係)に任命され、海外出張が多く、また、Asia Pacific Association for International EducationのPresidentとしての国際会議主催、基調報告等のため、海外調査の時間を見いだすことが困難であったことにより、予定通りの進捗がなかった。 その結果、補助事業期間延長の申請をせざるを得なくなり、また研究費の使用につき生じた残額を次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、民間賃貸住宅市場について、文献調査のみならず、実態調査をすることを考えている。可能であれば、アメリカとイギリスの状況を調査したい。 また、非対称情報の経済学、社会的包摂についての社会学、賃貸住宅市場における契約取引への介入の正当性に関する法哲学・政治哲学、等についての文献収集、調査を進める。 補助事業期間延長が承認されたので、本年度においては、これまでの研究内容をまとめ、研究成果を公表するよう務める。
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