本研究には、「賃貸住宅市場の変貌」と「契約交渉力格差論」という二つの視点があるが、本年度は、それぞれ以下のように研究を進めた。前者については、各種資料・データを収集、分析し、民間借家の現状、賃貸人及び賃借人の分極化状況、不動産賃貸管理業者主導による民間賃貸住宅市場の変化を明らかにした。後者については、民間賃貸住宅に関連する消費者契約法上の判例・学説の進展を分析し、判例法理論が、当事者間の交渉力格差を軽視し、契約締結時における契約条件の透明化を重視し、賃貸人の契約の自由を尊重する傾向にあることを明らかにした。さらに、近時においては、民間借家法制の規制に関しては消費者契約法が借地借家法と同様の機能を果たしていることを明らかにした。 本年度の研究成果とこれまでの検討を結びつけ、本研究の結論として、民間賃貸住宅市場の法的規制に際しては、借地借家法による規制に加えて、賃貸住宅市場の分極化傾向、賃貸借当事者間の情報の質と量とにおける非対称性、契約交渉力の格差、不動産賃貸管理業者主導による民間賃貸住宅市場の変化、判例法による規制の不十分性、消費者契約法による規制の重視などの要素を考慮したうえで、法規制を進めていくべきことを明確にした。 本研究による理論的な検討を背景として、借地借家法制を住宅政策・商業政策・都市政策と関連づけ、賃借人の居住・移転の自由を保障するという観点から論述した借地借家法に関する教科書を出版した(「借地借家法案内」勁草書房・2017年2月・本文294頁)。
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