取引社会・市民社会のニーズに対応しうる仮処分命令の審理方法を解釈論によって提示することが本研究の目標であった。現行の仮処分命令手続によっては解決できないケースや、審理のなされ方によっては十分な救済が図られないようなケースが存在しているところ、これをアメリカの差止命令(インジャンクション)、とくに予備的差止命令発令のための4要件の審理を柔軟におこなう連邦裁判所の判断を参考にしながら、柔軟かつ適正・迅速に解決するための解釈論を検討した。 紛争解決として重要なことは、事件が迅速かつ適正に処理されることであり、民事保全制度はこれに応えるためのものである。しかし、わが国の現行手続のもとでは、救済範囲が限定されるという問題が生じている。民事保全において手続保障の重要性が説かれることは多いが、民事保全法の運用による救済範囲の限定を指摘するものは少なく、それをアメリカ法のアプローチによって解決しようとの試みはこれまで見当たらなかった。 そこで、本研究において、アメリカのインジャンクション手続(インジャンクションは、①永久的差止命令、②予備的差止命令、③仮制止命令の3つからなるが、本研究との関係において重要なのは、②および③である)を参考にしながら、救済範囲を拡張するための解釈論を検討した。インジャンクションは紛争解決のための柔軟な制度であることのみならず、わが国の会社法や平成17年改正前商法における差止制度としてすでに導入されており、比較法検討に際してのアレルギーは少ないといえる。 研究成果として、本案訴訟において判断されるべきとされてきた事件類型のかなりの部分について保全命令の発令を可能ならしめるための解釈論を提示するための予備研究は終了した。今後、保全命令による救済範囲を解釈論によって拡張し、迅速な紛争解決制度の構築を図るための研究を続けたい。
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